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好き?



「ねぇ私のこと好き?」
「…うぜぇ」



船長室でふたりの時、デートの時、ご飯の時。
それとなくさりげなく聞くけど、キッドの答えはいつもこんなの。
未だ好きって言ってくれた事がない。



私はエスパーじゃないし、私がキッドのことをどれだけ好きでも、私がどれだけキッドに好きって伝えても、キッドが私の彼氏と言う肩書きを持っていたとしても、「好き」って言ってくれなきゃ、不安になる。




「…お前、ホント馬鹿だろ」
「なんで」
「今何時だよ」
「7時。朝の。」



ちらりと時計を確認して告げると、ベッドの中から1ミリも動かないキッドは深いため息を吐いた。
その前で両膝を使って頬杖をついている私。
キッドに嫌いって言われる夢を見て、怖くて悲しくて少し泣いたのはさっき。そのままキッドの部屋まで来てしまった。
だから、今はキッドのこの溜息さえも私を不安にして傷つける。



「…来いよ」



未だ眠そうな目で私を見て、ベッドの中へと誘う。
いつもなら嬉しくてドキドキしながら従うけど、今日はふるふると首を横に振る。



「キッドが好きって言ってくれたら、行く」
「…アホか」



ある意味予想通り、でも期待はずれのその言葉に、沈んだ心と一緒に視線も床へと向かう。



「今日はいつもに増してしつこいじゃねぇか」
「…怖い夢見たから」
「どんな?」
「キッドに嫌いって言われた、」
「……ばーか、言うかよ」



その言葉に顔を上げる。眠そうな瞳と目が合った。



「でも今のキッドは夢の中のキッドより酷いよ」
「あ?」
「好きも嫌いも言ってくれないから、前にも後ろにも進めない」
「……後ろに進む必要はねぇだろうがよ」



そういうことじゃないんだよ、キッドの馬鹿。
なんだか、余計に悲しくなってくる。どんなことをしたって、キッドの気持ちを聞く事なんて出来ないんだ。このままじゃ、どんどん悪い方向に考えてしまう。一旦、部屋に帰った方がいいかも。



「ごめん、やっぱ帰るね」
「……」



すくりと立ち上がり、キッドに背を向けてドアへと向かうけど、すぐに後ろからチッと舌打が聞こえてそれと同時に振り返る。そしたら、ベッドの中にいたはずのキッドがすぐそこにいて、何、と思う暇もなく抱き上げられてベッドの中に舞い戻った。



「寒ィ」
「ちょ、キッド、!」
「うるせぇ」
「な、」
「クソ、ミアなんでこんなに冷てぇんだよ」
「じゃ、じゃあ離せばいいじゃん」
「離すかよ」



さっきまで部屋の外にいたんだから、体は冷たくなってて当然。
でもベッドの中に戻ったキッドは、私をぎゅうと抱きしめて離さない。
体は嬉しいってドキドキしてるのに、心は複雑だ。



「女って本当、面倒だな」
「じゃあ、はっきり嫌いって言えば?そしたら、もうキッドにつきまとわないよ、…船長さん」
「心にもねぇこと言ってんじゃねぇ」
「本心を話してくれない人に本心を話す必要はないでしょ」



拗ねたようにそういう私に、キッドは抱きしめる腕の力を強めた。
キッドはいつも言葉が足りない。でもその分行動で示してくれるから、本当はキッドが私を大事にしてくれているってことは分かってる。


でも、さ。
ちょっと我侭言ったっていいじゃない。



「…ったく、一度しか言わねえからよく聞けよ」
「え、う、うん」
「ミアが好きだ」
「………うん、」



ほっこりと胸が温かくなる。
とくんとくんと流れる音が心地よく響く。
嬉しくて、口元が緩んで、幸せな気持ちになる。



「…二度と言わねえからな」
「え!また聞きたい」
「言わねぇ」
「む、…じゃあ、不安になったときだけ、」
「特別な、」



私の顔を隠すようにまたぎゅっと抱きしめ直したのは、多分キッドの照れ隠しだ。











(キッド!ちょー不安!私の事好き!?)
(嘘吐けてめぇ!誰が言うか!)
(だってもう一回聞きたいんだもん)
(ったく、…ばーか)
(!!(優しく笑うの、禁止!))




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