03

 その後、まりは駅前に行くことにした。
 しばらく道ばたに立ち尽くして唖然としたのち、ふと我に帰って、このおかしな新宿から抜け出そうと思い至ったのだ。
 きっとここから出れば、なにもかも元通り。
 そうまりは考えた。
 考えたかった。

 けれど、まりの前に大きな壁が立ちはだかることとなる。

「な……なにこれ!!空宿!?新宿じゃなくて、からじゅく!?」

 駅名が、別のものになっていたのだ。
 駅名だけではない。
 ここは新宿ではない都市だ、と全く見覚えのない駅と化した建物全てが、彼女に訴えていた。

 (なんで駅の名前が違うの!? なんか、駅の雰囲気も違うし!! 何ここ!!
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 ……ハッ! そ、そうだ。路線図見よう、路線図!!)

 まりの家は高田馬場にある。
 山手線に乗って帰るならば、新宿、大久保、とくれば次はもう高田馬場だ。
 それだけならば非常に簡単に帰れそうにも見える。
 彼女自身も新宿ユーザーであるとはいえ、ときたま迷子になるほどだ。
 しかし、そんな者にも容赦なく迷宮のような道をあてがってくるのが新宿だ。
 迷う時はとことん迷う。

 だが、入り口から券売機くらいまでの道のりならば、ものともせずにまりにも行けるはずだった。
 そう、はずだったのである。

 (……どこ?)

 駅の外観だけではない。
 中も見覚えのない道ばかりの迷路で、迷子になってしまった。
 券売機にすら、辿り着く事ができない。

 (空宿といい駅のつくりといい……あたし、こんなところ知らないよ……)

 まりはもう、泣きそうだった。
 心細くて、たまらなかった。

「もう、わかんない!」

 だからだろう。
 まりは元来た道を必死で辿って、偶然視界に入った喫茶店に飛び込み、自分の世界に閉じこもってしまった。

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 それからゆうに、二時間がたった。
 落ち着くために何度も何度も深呼吸を繰り返して、コーヒーが低価格でお代わりできるそうなので、何杯も頼んではそれを飲み干した。

 (ああ、やっと落ち着いてきたかも……)

 そして、ようやく冷静になるのであった。

 (まず……たぶん、あたしが今いるのは新宿だけど、新宿じゃないところ。
 っていうか、空宿。
 そしてここは東京だけど、東京じゃないところ。
 ……ただ、"2013年の東京"なのは確かだと思う。電光掲示板に書いてあったから。
 ああもう、ほんとややこしい。
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 で、だ。
 あたしはおそらく……まあ、言うなれば――パラレルワールドにでもいるんだと思う。
 それも、ただのパラレルワールドじゃない。名探偵コナンの世界の、パラレルワールド。
 江戸川コナンって呼ばれてたあの人、どう見ても20は越えてたし……。
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 っていうことで、いいのかな? ……その、彼の言ってた"真実の仮定"っていうのは。
 すんごい、すんっっごいありえないことだけど……。
 でも、こうじゃないと、説明がつかないことが、多すぎる)

 こんな結論を出したのだった。
 彼女自身、こんなことは経験しなければ信じることも出来なかった。
 親から聞いたって、それはなんのファンタジー小説なんだと一蹴していたことだろう。
 だがここは現実だし、自分は正気だと心から思っていた。
 だからそう結論づける他に、方法がなかった。

 そして沈痛そうな面持ちでずっといたものだから、まりは何度か心配そうに見守ってくるウエイターに声をかけられていた。
 ついでに、こっそりアドレスを渡されて、ナンパもされていた。
 電話かメール、してくださいね!なんてフキダシの先に、かわいらしい絵が描いてある。
 地元が地元なので割とナンパには慣れているまりは、それを貰って逆に少し落ち着いたような気がした。

 (あー、なんかパラレルワールドっていったって、あんまり変わらないんだなあ……。
 ちょっと、元気出たかも。
 でもお兄さんごめんなさい、今受けてる余裕ないや。
 だって携帯動かないし……あと、家も探さないといけないしね)

 近くのテーブルを掃除している彼をまりが見つめると、気恥ずかしそうにしていた。

 (でも、字もうまいし、なんか賢そうな人だなあ……。
 み・つ・ひ・こ、だってー。ふふ。
 いい人みたいだし……うーん、ちゃんと余裕できたらお茶にでも誘ってみようかなあ)

 と、考えて、渡された紙のコースターは鞄にしまうことにした。
 お金がきちんと使えることを確かめて、お会計をして外に出た。(使えなかったらどうしようかと彼女は内心冷や汗をかいていた。)
 落ち着いて見てみると、やはり新宿とは気配の違う街並みであった。
 


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