ギアス×鋼

(主人公はルルーシュ)




 アメストリスと呼ばれる国家の首都、セントラルシティ。その一角に位置する一軒家に、青年とその妹が仲睦まじく暮らしていた。青年の名はルルーシュ、妹はナナリーという。
 二人は成人に満たない年齢ではあるものの、国家錬金術師という研究職に就く兄の収入によって自立し、しっかりと毎日を生きていた。

「ナナリー、ご飯だ」

 本日の食事当番であるルルーシュが、ナナリーに声をかける。彼女は既に庭に花を植える作業や水やりを中断して、ルルーシュのすぐそばまで寄っていた。

「わあ、いい香り。何の匂いですか?」

「昨日質のいい岩塩を貰ったから、試しに鶏を塩焼きにしてみたんだ」

 と、口を動かしながら、出来上がった料理を手際良く綺麗に皿に盛り付けるルルーシュ。ナナリーも食器を出したり配膳したりして手伝いをした。

「まあ、あの大きなピンク色の塊は塩だったのですか?」

「そうだ。精製してみたら、随分綺麗な粒の小さい結晶が仕上がったよ。さ、用意ができた。食べようか」

 (あとでナナリーに精製の過程を見せてやろう)

 ルルーシュはそう考えながら、ナナリーを席までエスコートする。彼女のために椅子を引いてやれば、ナナリーは感謝を告げながら座った。

「おいしそうです。お兄様、いただきますね」

「ああ、召し上がれ」

 焼きたての白パンがお肉に合っておいしい、野菜を煮込んだスープもおいしいと食べ進めるたびナナリーが笑顔になるので、ルルーシュは幸せになった。

「そういえばお兄様、今回はどんな論文を書いたのですか?」

 ナナリーはいつもルルーシュの研究に興味を示している。錬金術のいろはは学んでいないものの、ルルーシュの生み出す物に対する興味はいつだって大きかった。

「そうだな……言ってしまえば、心理学と錬金術の関連性についてだ」

「心理学? 錬金術に人の心が関係してくるんですか?」

 ルルーシュによって丹精込めて焼かれた柔らかなパンを千切る手を止めて、ナナリーは問いかける。果たして科学に心理学が介在し得るのか。少し考えただけでは、彼女にはわからないらしかった。

「ああ、意外と密接に関連している。ほら、この前錬金術の基本は円形にあるって言ったろ? 錬成陣は時間と力の循環を表す根源的なシンボルだ。そして、心理学にも円を理想とする考えがある。円形が心を落ち着かせたり、不安な時に円形を求めることがあるという裏付けもあってな、ここの関係を掘り下げてみたんだ。まあ、明確な結論はまだ出てないけどな」

「そうなんですか?」

「はは、査察用じゃあないお遊びで書いたような息抜きの論文だからな、そんなものさ」

「でもお兄様、ロイさんからとても評判が良かったって伺いましたよ?」

「なにっ、いつあいつに会ったんだ、ナナリー!?」

「さっき庭でお花を植えている時にですわ、お兄様」

「あいつっ」

 愛する妹の口から女たらしの名を聞いて、焦るルルーシュ。

「いいかナナリー、少しでも変なことをされそうになったらこの前渡したブザーの紐を引っ張るんだぞ」

 真剣さを前面に押し出して、ルルーシュはナナリーに聞かせた。
 ブザーとは、彼が彼女の防犯のためにわざわざ一から作り上げた小型の警報機のことだ。小さいがその音はとてもパワフルで、しかも頑丈だ。
 少し話しただけですよ、とナナリーはおかしくなってクスクス笑った。心配性な兄の言動は、彼女にとっていつも心地が良かった。

「こんなに美味しいご飯を作れる上に素晴らしい論文を書けるなんて、お兄様の手は魔法みたいですね」

 そう言ってナナリーはニッコリ笑んだ。ルルーシュは何か眩しいものを見るような気持ちになる。彼にとっての魔法とは、ナナリーの笑顔であった。

 と、そこで、玄関口のドアベルが鳴る。

「いいよナナリー。俺が出る」

 二人きりの団欒を邪魔する者は誰だと内心憤慨しつつも、椅子を降りようとした彼女を押しとどめて、ルルーシュは居間を抜ける。豪邸というほどでもないが、並のものよりはずっと大きい家だ。客人を待たせないように彼は早足で向かった。


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