あいしてる・いらきいだ
「愛してる」
女は囁いた。男はその言葉を聞くと、胡散臭そうな顔で「嘘をつくなよ」と手を振った。
「どうしたって嫌いになんてなれないの、だから」
女は男からの愛を乞うた。どうしたら男が答えてくれるのかわからないといった顔をしながら、わからないなりに言葉で訴えた。
「ぼくをみじめにしたいのか」
しかし男は靡かない。口をいちの字に結んで、眉をひそめた。女は男の様子に胸を痛めて、「そんなこといわないで」と悲しげな声を上げた。
「ぼくはきみがきらいなんだ」
突き放すような声で男は続ける。
「本当のことを言わないから嫌いなんだ」
男の心はそう叫んでいた。彼だって苦しかった。
・・・
「ぼくはきみがきらいなんだ」
その言葉は女の胸を突き刺した。女は涙を流して悲しんだ。
そして「そんなこといわないで」と、男をにしがみついた。
「ぼくをみじめにしたいのか」
男は声の調子を落として、そう言った。怒りを含んだその声は、女の体を反射的に跳ねさせた。しかしそれでも追いすがる。惨めなまでにあとを追って男の情を頼りにしたがった。
「どうしたって嫌いになんてなれないの、だから」
男はうっとおしそうに「嘘をつくなよ」と女を振り払って、冷たい目を向けた。
どうしたら男が許してくれるのか、女にはわからなかった。もっと自分の行為を省みていれば、と後悔ばかりが胸をかけた。
「愛してる」
その言葉に偽りがあるかどうか、女にもわからなかった。ただただ、必死だった。
「ごめんなさい、すてないで」
女は泣いて謝り続けた。
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