04

 あたしはどうやら浮遊霊になったらしい。あたし自身でも視認が難しいほど薄い色の身体になってしまった。向こう側がよく透けて見える。足はあるが、空中を浮遊しながらの移動も可能で、歩いて動くよりもこちらの方が早く進むことができるようだ。


 あたしが目を覚ましたのは、どこかの廊下だった。あたしの遺体とあの男から離れたところらしく、どこにもあの殺人現場に入るための扉がどこにあるのか分からない。でも多分、同じ土地の中には居るのだろう。壁に掛かるランプがあたしの死んだ部屋にあったものと同じものだ。
 とりあえずわたしの身体の末路を知ろうにも、まったく状況が把握できなかったのであたりをうろちょろしていると、あの男と同じように黒いスカートのようなものを着た男とすれ違った。フードに隠れてすべての顔を垣間見ることはできなかったが、こちらの男もまた、どうやら白人らしかった。華美な装飾を施された廊下を見回しながら、男の後を追う。
 すると、ある扉の前でドアをノックし、誰も見ていないというのに恭しく頭を下げて、「My lord…」と言った。
 扉の向こうから「Abraxas…come in.」なんて返事が聞こえた。

 アブラクサスか、入れ…アブラクサス?…アブラクサスで思い出すのはあのスイス製のガラスペンか、頭が鶏みたいな神話とか聖書にでてくるやつか、マルフォイくらいなものだけどなあ。まあ、この人の名前なのだろう。
 などと考えていると、アブラクサスは恭しく敬意を示した体制をほとんど崩すことなく扉の中へ入っていった。何か分かるかもしれないと思い、あたしも一緒に中に入った。--ビンゴ!


 アブラクサスを出迎えたのはあたしを殺したとんでもなく美しいあの男だった。ただ、あたしの身体がない。どこだろう、と周りを見回すと、部屋の隅にやけにお腹の大きな大蛇が横たわっていた。


「卿……何が起きましたか?」
「ああ、ある'muggle'が現れた。…それはあまりに突然で、私はこれを殺さずにはいられなかった」


 しげしげと蛇を見る私の横で、二人はこんな会話をしていた。久々に生の英語に触れたものだから、訳が英語の教科書みたいになってしまった。次からもう少しましに訳そう。英語は割とできる方だけど、ネイティブの早さについていくとなると大変だ。
 本当は英語を英語のまま理解できればいいんだけど、なあ。それにしても、muggleってなんだろう、アジア人のことを最近はmuggleとでも言うのだろうか。あ、でもあたしは主に辿れるだけでも6つ国の血が入ってるから、見た目は日本人には見えないんだった。だけど心は日本人だ。


「そうですか…では、その侵入者は一体何処に?」
「裸にし、調べたあと、俺様の'Nagini'に食べさせた」


 マイロードと言うくらいだから主従関係があるだろうし、敬語と偉そうなキャラで分けたりしたらいいんじゃないだろうか。…うむ、訳もまあ上出来か。などと思ったが、言葉の意味を考えて、ああそうかと落胆した。あたしの体はこのでかい蛇に食われたのだ。腹でも裂かない限り、あたしの身体を見ることはもうできない。そもそもそんな芸当今のあたしには出来ないのだけれど。じっくりとこのNaginiという蛇があたしを腹の中で溶かすのを指を咥えて見ることしか出来ないのだ。


「しかし、殺してしまうのは少々惜しかったかもしれないな…見ろ」


 お貴族様なのかは定かではないが、卿と呼ばれている男は懐からあたしのiPhoneを持ち出した。パスワードをかけていなかったことをこれほどまでに後悔したことはない。やーめーろーよー!


「これは、一体…?」
「muggleはmagicの使えない出来損ないだが、機械の扱いには長けていると言う…しかし、このようなものを作れるほどの技術は確立していないはずだ。あの女は、もしかすると何か有効な利用手段があったのかもしれないな」

 へえそう利用価値。利用価値ねふんふん。ふざけんな死ね。呪ってやる。人のこと殺しやがって。というより、どうやって殺したの!!!あたしを!!あの!!緑の閃光、で……緑……え?……My lord、abraxas、muggle、magic、それから緑の閃光。……もしかして。もしかして、こいつらヴォルデモートとアブラクサス・マルフォイ?






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