05
「こりゃまた、すさまじい集中力だね……」
オートメイルの発注がないので、急ぎの仕事はとくにないピナコ。
コナンとウィンリィの手を借り床掃除や庭の掃き掃除を終わらせてから、オートメイルのいろはを教えてやるかと机に大衆向けの機械鎧の本や専門書、それからオートメイルの見本を用意している時のことだった。
ピナコがせっせと仕事部屋と居間を往復していると、いつの間にやら机の上でコナンが本を読みふけっていたのだ。
「エドとアルみたい……」
ウィンリィはぽつりと呟いた。
エドワード・エルリックとアルフォンス・エルリックはウィンリィの幼なじみで、つい先日まで生活を共にしていた少年たちだ。
ウィンリィは機械鎧技師、エルリック兄弟は錬金術師を目指して互いに切磋琢磨していた。
錬金術とは学問の一つで、錬金術を扱うものの化学に基づく高度な知識と錬成陣が揃って初めて活用することの できる技術である。無から有を生み出すことや、命を作り出すことはできない。しかし、とてつもない可能性を秘めたテクノロジーとしてアメストリス国に随分と目をかけられた職業なのである。
そんな彼らは現在、プロの錬金術師に弟子入りを果たすため、遠路はるばるリゼンブールまで行っており、この家にはいない。 いつ帰ってくるのかもわからない。
だが、ウィンリィもピナコも二人が立派になって帰ってくることを心から信じていた。
エドワードとアルフォンスは、錬金術のこととなるともう辺りが見えなくなるほどの勉強をこなしていた。殊に本を読む際には、二人して一切周りが見えなくなるのだ。そう、今のコナンと全く同じ。
コナンもオートメイルのいろはが書かれた本にすでにのめりこんで、ウィンリィとピナコが苦笑いをして自分を見つめていることなど、全く気づきもしていない。
「しょうがないねえ」
ピナコは片眉を上げながらため息を吐くと、上から順に本の専門度が高くなるような並べ方をして、コナンの机の横に積んでやる。
彼女はこのタイプを何年も間近で見ていたために、余計な口出しをしないで見守ってやっていた方が良いということを知っていた。
「あたしも読む!」
コナンの様子に感化されたらしい。ウィンリィは自室から教科書として使っているオートメイルの専門書を持ってきて、コナンの目の前に座って同じように読み始めた。
「やれやれ」
と、ピナコは嬉しそうに笑いながら紫煙を紫煙をくゆらせる。
読書のお供に果物を絞って作った百パーセント果汁のジュースでも出してやろうと、彼女は台所へと向かった。
−−−−
ふと我に返るコナン。
顔を上げると、ニコニコしながら自分を見つめているウィンリイと目が合った。
「えへへへへ」
嬉しそうに笑うウィンリイ。
「あたしね、同じくらいの子でオートメイルに興味持つ子はじめてなの!」
「そうなんだ。オートメイルって、すごく面白いね」
「でしょ?かっこよくって、サイコーにイカすの!」
記憶が何もないコナン。かろうじて言葉と名前、日用品の使い方の記憶だけを持っていて、その他はすっかり抜け落ちてしまっている。
ご飯を食べても会話をしていても、どうしてか悲しい気分になってくる。
けれど知識を吸収している間だけは、どうしようもなく楽しかった。
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