03
「ウィンリィッ!乾いたタオルとシャツ用意しなっ!」
「ばっちゃん?」
数日前、ピナコはびしょ濡れの子どもを背負って帰ってきた。ウィンリィは状況を把握できずに、いきなり開いた扉をポカンとした顔で見つめる。
「早くしておくれ!」
「う、うん!」
どやされてしまったウィンリィは、大急ぎで家を駆け、ピナコの望むままに動き回る。
びしょ濡れの服を二人掛かりで脱がし、身体を拭いて、ダンスから持ってきた大きなシャツを少年に着せる。
「ばっちゃん、この子、すっごく熱い……」
(苦しそう……)
意識を失っていて、呼吸が荒く、濡れているというのに身体は燃えるように熱い。これは確実に人の出していい体温ではないと彼女は感じ取った。
「長時間雨ざらしになってたせいさね。肺炎にかかってなきゃいいんだが……ホラ、ベッドに寝かせるから手伝っておくれよ」
「はいっ」
ウィンリィは、意識のない少年をピナコの背に乗せる補助をする。彼よりもいくらか大きいとはいえ、八歳児である身体ではそれくらいのことしかできない。
「よっ……こいせっ。……ふう、ババアにゃキツい労働だ」
ピナコは自分の背を拳で叩いた。老人の腰には少しばかり負荷がかかりすぎたのだろう。
「ばっちゃん、だいじょうぶ?」
「平気さ。それより、つきっきりでこのガキのこと見てやらないと」
「あたしも手伝う!」
「そう、助かるよ」
少年をベッドに寝かせ、ピナコは出来る限りの処置を施していく。
「まずいね、四十度あるのに手足が冷たい……手足の付け根を冷やしたりしてやらないと」
「ばっちゃん、氷と袋とタオル持ってくればいい?」
「ああ、頼むよウィンリィ」
そうしてウィンリィは少年が良くなるように、早く目を覚ますように、と祈りを込めながら毎日甲斐甲斐しく世話を焼いた。
人種が異なるためか正しい年齢を推測することが難しかったが、この幼さだ。きっと自分よりも年下に違いないとウィンリィは考えた。そう断定すると一向に目を覚まさずに眠る少年がますます愛おしくなってきて、一度も話してすらいないというのに、弟ができたような感覚にすら陥った。
ーーーー
数日経って、ようやく少年は目を覚ました。記憶がないと言う少年の青みがかった黒い瞳が、小刻みに揺れている。
ウィンリィは触れたら割れてしまいそうな危うさにいち早く気がついた。
(この子にはあたしがついてないと)
幼い使命感が彼女を強く突き動かした。
「はじめまして、あたしね、ウィンリィ・ロックベルっていうの。よろしくね!」
「ウィンリィちゃん……?」
「うん!あたしがコナンのお姉ちゃんになってあげるからね、大丈夫だよ」
(あたしが、守ってあげるの)
「……ありがとう、ウィンリィ姉ちゃん」
底抜けに明るい笑顔でコナンの手を握る彼女に、コナンの心はほわりと暖かくなった。
何もかもがわからない。けれど、彼女の一言が明かりとなって灯ったのだ。
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