コナン×鋼

(主人公はコナン)



 ピナコが彼と出会ったのは、ある土砂降りの日だった。

 オートメイルの部品を買い付けに行った帰り道、撥水加工を施した河童を着た彼女は一人で帰宅の途についていた。外見こそ六十代の小さな老人ではあるが、足取りは軽く、しっかりとしている。

 全知全能の存在でさえ数えることを放棄するような数の雨粒が地面に叩きつけられ続けているが、ピナコはそれを屁とも思っていないようだった。
 どうも、よほどよい買い物ができたらしい。彼女の機嫌は苛烈を極める雨の咆哮と裏腹に、上々なものであった。

 そんな折、ふと雨ざらしの畑に目をやった。何の気なしに視線をずらしたはいいが、どうしてかそこから目が離せなくなる。


 ……何か、畑に見えないだろうか。


 雨が目隠しになって視界はどんよりしている。眼鏡には絶えず雨粒が張り付き、入れ替わり立ち代り水の筋となって通り過ぎてゆく。けれど、見逃してはならないものがそこにある気がしてならない。


 影が、そう、小さなーー子供ほどの大きさの、影が見えないだろうか。


 ピナコの医師としての何かが、彼女の足を地面に縫いつけていた。このまま気付かずに帰すことは許さないと、必死でピナコの第六感に訴えていた。
 彼女はその胸のざわめきに素直に従って、よくよく目を凝らす。

(まさかっ!!)

 嫌な予感は的中していた。

「ちょっと、そこの!」

 ピナコは絶叫した。何者かが泥の中に倒れていたのだ。

 彼女はウィンリィのために買ったお土産やら何やらを放り投げ、大慌てでその少年を背負い、自宅に連れ帰って、つきっきりの看病を始めた。

 四十度という超高熱の熱を出し、意識を失い続ける少年。

 ピナコとウィンリィはその間、何度も氷枕を取り替え、汗を拭き、口に水を含ませたり栄養剤を点滴したりし続けた。彼が意識を取り戻すまでの三日間、猛烈な勢いで降り続いた雨は、三日後の朝、ようやく雲の切れ目から朝日を覗かせることとなった。

「ーーう、う」

 そして心のこもった看病の甲斐あって、彼が目覚めた時にはもうすっかり熱は下がり切っていた。

「ばっちゃんっ! この子、目が覚めたよ!」

 ちょうどそのとき側にいたウィンリィが、ピナコを大きな声で呼ぶ。ピナコは作業机のものを置いて、すぐにベッドへ向かった。

「ここ……は」

「おや本当だ」

 焦点が定まらない様子で、辺りを見渡す少年。ピナコは手を洗ってから、目に光を当てたり喉の腫れを確認したり熱の具合を見たりと、手際よく簡易の診断を下す。

「肺炎の心配はもうないね。ウィンリィ、水持ってきな。ただの水じゃなくて、経口補水液だよ」

「けいこう……うーんと、ちょびっとのお塩と、手で握ったお砂糖を入れるんだよね?」

 経口補水液とは水分を手っ取り早く吸収するために作られた、体内の水分の成分に極力似せた水のことだ。

「そうだよ、よく覚えてるね」

「えへへっ」

 以前一度だけ教えたことのある経口補水液の作り方を覚えていたウィンリィ。えらいえらいと彼女の頭をピナコが撫でてやると、台所の方へ照れ臭そうに笑いながら、走り去って行った。
 それを見届けてから、ピナコは少年を家まで送り届けるために、ひとまず彼の素性を確かめることにした。

「アンタ、名前は?」

「僕ーーコナン。江戸川コナン……です、たぶん」

「コナン?名前はエドガワじゃあないのかい?」

 コナンはコクリと頷いた。

「そう、コナンだね。じゃあ、家はどこだい。何も持ってなかったから、アンタのことがわかりゃしない」

「え……っと」

「ばっちゃーん」

「ああ、いいよ。まずは水をお飲み」

 ウィンリィが水をこぼさないようにと、お盆に乗せて慎重に戻ってきた。自分の名前でさえ要領を得ない様子のコナンに対してピナコは違和感を感じつつも、彼を起き上がらせて、ウィンリィから水を受け取った。


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