瀕死 | ナノ


▽ 08


ご飯もまともに食べられないので、かなり痩せてしまった。肌の艶も失われて、髪は油まみれに違いない。頭痒い。
何が辛いって、日々の努力の賜物が台無しになっているってことだ。

寝ている間には看護師さんが体を拭いたりカテーテルをとりかえたりして、目が覚めている時には話をしたり、ぼーっとしたり、何も考えない努力をしたりする。
気が向いた時に勉強もするが、ほとんど完全に老人のような生活を送っていた。脳年齢なんか、きっといくつか老けたに違いない。

だが、ずいぶん体調が良くなったのか、ここ数日はしっかりと夜にも眠れるようになっていて、漸く神経を尖らせずともよくなった。
痛みで眠れない夜を過ごし、昼に意識が落ちる日々というのは、なかなか堪えるものがあったから、嬉しさがつのる。


「もう骨は大丈夫だね。うん、完治だよ」


そして今日の診察で、リム先生はそう言った。
驚くことに、リハビリが間に合わないほどのスピードで治った。完治にかかった期間はおそらく一ヶ月ほどだろう。

……骨というものは、そんな短期間で治るものではないはずだ。怪我をしたって、特別治りが早かったわけでもないのに、どうしてこんなに違和感のつきまとう癒え方をするのか。自分の体を気味が悪いと思ったのは、生まれてこのかたはじめてかもしれない。

しかし医者であるリム先生は朗らかに微笑むだけでなんとも言わないので、ひとまず考えるのをやめた。

『ありがとうございました』

拙いハンター文字を、メモに書き込む。書くことだけなら、時間はかかるができるようになった。

「ほっほ、いいんだよ。私は医者だからね」

『退院ですか?』

完治ということは、もう出て行かなければならないのだろうか。背中がひやりとする。
私だって馬鹿じゃない。確実に今の私はマトモじゃないのだ。退院したって、右も左も分からないに違いないのだ。
そんな焦りを覚えながら、黙ってリム先生の返答を待つ。

「いいや、ハルちゃん。君にはまだリハビリコースが残っているよ。まだ退院は遠いねえ」

『そうですか』

そうか、リハビリがあったなと納得しながら、ホッとした。

しかし、リハビリというのは大きな苦痛が伴うという話を聞いたことがあるのを思い出して、身を固くする。
癒着してしまった皮膚を剥がしたり、弱った筋肉を鍛えたり、マッサージをしたり、きっとやることはたくさんある。
介護生活を送っていた私にはきっと、かなり大変なことだ。

「そう余り怖がりすぎないでおくれ」

リム先生は苦笑した。

「今頑張らなきゃ、あとあと辛いからね。さて、リハビリルームに君を連れて行こう」

うう、早速ですか。
ビクビクしながらも、されるがままだ。……うっ、私、ほんとに臭いな。一ヶ月お風呂に入ってないもんなあ。

骨は治ったが、筋肉がかなり弱ってる。
歩くのもなかなか大変なので、車椅子に乗せてもらった。



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