瀕死 | ナノ


▽ 06


眠っている時とリム先生が一日数回私の元を訪れる時とノエラさんかモカさんがお世話をしてくれる以外の時間は、とても苦痛なものだった。

なんせ、何もできない。
何もできないから、必然的に自分の怪我とこれからについてを考えさせられた。だけれどずっとそんなことを考えていると頭が狂いそうになるので、心を無にして何も考えないようにする努力も始めた。いわゆる瞑想とかいうものだが、なかなか難しい。「考えないこと」を考えてしまったり、過去のことがフッと突然よみがえってきたりするからだ。人間は常に何かしら考え事をしている、ということを聞いたことがあったが、考えないことがこんなに難しいのだとは思いもしなかった。

日がな何も考えない練習をする一方で、お医者さんが私にハンター文字というものを教えてくれた。
それが、ここではとても当たり前の文字らしい。
信じ難いことだが、たくさんの既製品に記されたハンター文字を大真面目な顔で見せてくるリム先生を見ていると、まったく信じないというのも馬鹿らしくなる。かといって、すべてを馬鹿正直に信じるほど常識を放り投げている訳でもない。

というわけで、真偽のほどは保留だ。体がちゃんと動くようになったら確かめることにする。

とにかく、そのハンター文字とやらを教えて貰って、より高度な意思疎通を図ることにした。
だけど、以前書かされた50音表を使う方が簡単に意思疎通ができることにわりとすぐ気付いたので、ハンター文字はほとんど読めないまま。たまに指でなぞってハンター文字の練習もするけど、気分が乗らなくてあまり続かない。
まあ、動けるようになったら読み書きの練習くらいはやってみようと思う。

そして、リム先生とひらがなを使って意思疎通を始めた。

まず、遅ればせながら、自己紹介をし合った。私は看護師さんたちの話の内容からリム先生がリム先生だとは知っていたのだが、直接教えてもらったことは、そういえばなかったなと今更ながら気がついた。
リム先生はリム爺と呼んでくれ、と言っていたが、流石に命の恩人をジイ呼ばわりにはできない。彼はリム医院唯一の医者で、院長も務めているのだとか。ずいぶん入り組んだところにこぢんまりと建ててしまったので、なかなか患者さんの数が増えないらしい。大丈夫なのかと心配になったが、大丈夫らしい。不思議なことだ。

それから、私がどうしてこんな怪我を負ったのかを話した。
リム先生に何か突発的な発作持ちではないかなど、色々聞かれた。しかし、ない、としか言いようがなかった。
今度、詳しく検査をしてみよう、とリム先生に言われた。
もしかして私は、どこかおかしくなってしまったのだろうか?

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