瀕死 | ナノ


▽ 03


しばらくすると身体も起きたのか、容易にまぶたを開けることが出来た。
この前は霞んで見えなかった天井も、毛穴のような穴の数々から転々とあるシミまできちんと見えた。……はて、私の視力はここまで良かっただろうか?いや、そんなことはどうでもいいか。

はっきり言って、病院にしては少々清潔感の薄い病室だ。壁はやや薄汚れているし、ベッドもなんだか非常に簡素である。顎を厳重に固定しているのか、ほとんど首を動かすことが出来なかったが、ちょっと見回しただけで、そんな印象を受けた。
……ここは一体、どこの病院だろう。

「こんにちは、点検と診察に来ました……ってアラ。目が覚めました?」

目をキョロ付かせていると、病室に入ってきた看護師さんと目が合った。
金髪で、声の高い人だ。聞き覚えがあるので、きっとこの前の人だと思った。

「んー、んんーっ」

口が熱く、開くこともできないので、唸って返事をする。

「あらま、大変。ちょっと待っててくださいね、リム先生を呼んできますから」





看護師さんがリム先生とやらを呼んでくると、状況がわからないだろうからと、色々話してくれた。リム先生はシワと白髪の目立つ60歳くらいのお爺さんだ。人の良さそうな微笑みが素敵な人だと思った。

話題はもちろん、私の怪我のこと。
簡単に言うと、顎とスネ・その他4箇所を骨折し、細かいものも合わせて8箇所のヒビが骨に入っているのだとか。
そして、中でも一番大きな怪我は、舌が半分なくなってしまったことらしい。

「……」
「驚くのも無理はないのう……どうやら君は顎を強く打ってしまった表拍子に、舌を自分で噛みちぎってしまったようだ。幸運なことは、君が窒息死してしまわなかったことだね。舌を噛みちぎることで舌の筋肉が痙攣して、喉に詰まってしまうことがあるから」

リム先生は、数日前に私に手術を行ってくれたらしい。縫合しようにも肝心の舌がなく、どうにもできなかったのだと陳謝してくれた。骨折とヒビの方は順調らしいが、舌は今後も生活に及ぼすのだと先生は言う。滑舌と味覚に著しい影響を及ぼすのだそうだ。
今現在、顎が大きく腫れてしまって熱も持っていて、舌がどうなってるのかはっきりとはわからない。もういっそ、わからないままであってほしかった。

「……」
「うんうん、つらいよなあ。だけど、君が少しでも辛くない道を探すのを手伝うから、どうか悲観しないでおくれ」

リム先生は、ショックで涙がこぼれる私の目を、柔らかいティッシュで拭ってくれる。そして、怪我に響かないようにそっと頭を撫でてくれた。
その手が優しく、思いやりに溢れていてたので、私は更に勢いづいて流れる涙を止めることができなかった。

prev / next

back to top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -