瀕死 | ナノ


▽ 02


「う、ぅぅ」

酷い目眩と激しい頭痛によって、ぼんやりとだが目が覚める。視界は霞んでいて、身体は動かない。

「先生、目が覚めたようです」
「もしもし、もしもし。君、わかるかね?」

呼びかけられたり、軽く揺さぶられたり、瞳に光が当てられたり、心音を聞かれたりしているのが、何と無くわかる。だが、それに反応しようという気さえ起きなかった。

「反応ありませんね」
「ううむ、もう少し時間がかかるのかもしれないな。慎重に様子を見よう」

なんとなくだがここは病院かな、と思った。けれど、それだけだ。たぶん、起きてはいるけれど脳がほとんど目覚めていないのだろう。
少し経つと、私のまぶたは再び閉じて、意識も落ちた。





ふ、と意識が浮上する。
身体が眠っているようで、目を開けることはできないが、周囲の音は拾うことができた。

「あれから目覚めないねえ。熱もまだかなり高いね。ちょっとしか下がってないよ」
「今のところ患者は彼女だけだから、つきっきりになってあげられるんだけど」

低めの声と、やや高めの声。どちらも女性のようだ。

「それにしても、どう見ても一般人なのに、何をしたらこんな大怪我負うのやら……」
「リム先生は、障害物のある高いところから落ちたような怪我だって言ってたわよ」
「骨折もさることながら、いろんなところが擦り剥けてるもんね」
「擦り剥けってレベルじゃないわよコレ、ところどころえぐれてるじゃない」
「縛り上げられて市中引き回しにでもあったのかね」
「バカ、やめなさいよ」

なんて、私のそばで話す二人。明らかに話題は私だ。どうやら私は、大怪我を負っているらしい。
どうしてそんなことに、としばらく考えて、そのうちにマンホールの中に落ちるときにいろんな部分を強打したことを思い出した。
二人の会話で熱がうんたらという言葉が聞こえたから、意識が曖昧なのは怪我による高熱のせいなのだと思う。
意識が朦朧とするほどの高熱を生み出す怪我とは、一体どれほどのものなのやら。

顎をマンホールの縁に強くぶつけたあとの記憶がないので、怪我の程度が全くわからない。

きっと、助けてくれたのは側にいた業者の人だ。退院したらなんとしても彼らに会って、感謝せねばなるまい。自分でさえ理解出来ない奇行に付き合わせてしまったのだろうから。
きっと工事を中断させてしまったし、治療費以外にも、慰謝料も払わなきゃならないかな。
仕方のないことだけど、大きな出費が予想されて、両親に申し訳ないと心の中で頭を抱えた。

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