瀕死 | ナノ


▽ 01


確かその日は、近所にあるスタバでソイラテというものを飲んでいた。
基本的に私は行きつけの煙草の燻る喫茶店でナポリタンと紅茶を頼むのが好きなのだが、その日は趣向を変えてみようと、初めて入店してみたのだ。
しかし注文形式がややこしかったので、とりあえず目についたものを頼んでみたものの、豆乳というものはホットでは牛乳と大して味がほとんど変わらないことを知って少しガッカリした。
ああ、これならばいつもと変わらず、あの業務用テーブルゲーム機が置いてある行きつけのお店に行けばよかった。もしくは家でホットミルクを飲みながら、セルフネイルの練習でもしていればよかった。なんて後悔したのを覚えている。
とはいえ、そんな風に脳内で愚痴をこぼしたものの、存外居心地がよかったので、深く座り込むことが可能な柔らかい椅子に全身を預けたことも事実だ。
隣の人が食べるケーキのセットが美味しそうだ。ああ、あの人が飲んでいるクリームの乗った飲み物はなんというのだろう。と、甘い香りに視線をあちこちに向けたことも、事実だ。
ーー食べ物に絡んだ話ばかりで、もしかすると私は食いしん坊だと認識されてしまったのかもしれない。しかしことの経緯を語るには必要なことなので、なるべく描写させていただく。
……ええと、そう。そして、おそらくここ辺りで、私はきっと正気ではなくなってしまった。
気付いたら私はスタバを飛び出し、きちんと人除けをした上でマンホールの蓋を開けていた業者二人組を押しのけて、わざわざ地下へと繋がるマンホールへの一歩を踏み出していた。

その時どんな事情で、どうしてむざむざ自分から下水道に落ちるような訳のわからない真似をしたのか、まったく不明であった。
ただ言えることは、マンホールの下へ行かなければという確固たる強い意思だけが働いていたのだと思う。私は明らかに冷静ではなかった。いや、マンホールへ自分から落ちに行くという行動自体が冷静なものとは到底思えないことだが、とにかくひとつの意思だけが私を突き動かしていて、他は何も見えていなかった。
もしかするとその時の私は、何かに乗り移られたり祟られていたのかもしれない。
幽霊などの存在を本気で信じていたのはもうずっと昔の話で、そういうある意味メルヘンチックな考えは捨てていたのだけれど、あの常識外れの私の行動に限っては、ありえるのではないかと、今でも思ってしまう。


結論を言ってしまえば、私はマンホールを通じて、下水道ではなく、異世界へ飛び込んだのだ。飛び込んだ際に身体の至る所、特に顎を強く打ち付けながら。

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