瀕死 | ナノ


▽ 11


長々と続いた私の筋肉談義は、ほとんど割愛させていただくとする。細かに話そうとすると、とてもじゃあないが一頁で語り尽くすことすらできないのだ。
触れた話題を上げるならば、主に筋肉の役割だとか、効率のよいトレーニングの仕方だとかである。まともに回らない舌を恨みながらも、わかりやすく伝わるように身振り手振りを交えてみせた。
あとは誤ったトレーニングの方法や、筋肉をつけるための正しい食事だとか、超回復の存在など、思いつく限りのことを話した。
リム先生は興味深そうに熱心に聞いてくれて、時には何かメモを取っていた。そして、私の話がひと段落つくごとに、相槌と質問を交えて話しかけてくれた。その姿勢が余計に私の熱弁を加速させたことは言うまでもない。

「ふむふむ、なるほど……」

『……と、まあ、私の知ってることといえばこれ位ですね。すみません、こんなに時間がかかってしまって』

「いやいや、いいんだよ。こんなにたくさんのことを話せるなんて、ハルちゃんはよく勉強したんだねえ」

「んふふ」

メモ用紙から顔を上げたリム先生が、微笑みながら私を褒めた。子供扱いされてるということが嫌でもわかるのだけど、リム先生の褒め方は率直で嫌味がないので、つい照れが勝ってしまう。

「ところで、そうだね……ハルちゃんの言ってる事はちゃんと辻褄があってるし、分かりやすくてタメになった……んだけれど、ね。気になったところがいくつかあるんだ。……ちょっと待っていてくれるかい?」

そう言葉を濁したままリム先生は席を立つ。暫くして分厚い医学書を三冊と、指4本分よりありそうなほども重なった紙の束を持ってくると、私の前に広げて見せてくれた。

「ここ……と、ここ…………そうそう、ここだ。それから……」

豆粒ほどの大きさのハンター文字によって事細かに説明されている、筋肉や骨が描かれたページを行ったり来たりしながら、リム先生はいくつかの文章を指差す。
かと思えば、唾液で僅かに湿らせた指が紙の束を駆け抜け、目当てのページを先頭に持ってきて、中央に位置する数行を示す。
その部分を覗き込むと、該当する箇所を指していた指は私が読むよりも早く離れて別の本へと移ってしまう。
あまりにも素早いその動きからは、リム先生がこの何千枚もある紙の内容を全て把握していることが伺えた。その離れ業に本当に驚いて、私は椅子からずり落ちそうになった。

『小難しいこととか用語とか、筋肉の名前以外はさっぱりわからないので、分かりやすく教えてくださると嬉しいです』

気になるところとやらを大方探したらしく、ようやく落ち着いた様子のリム先生にそう伝えれば、先生は目を丸くして、そうだったねと優しく解説を始めてくれた。

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