08
それから暫く経ち、まりの手持ちのお金がなくなる寸前、なんとか食い扶持を見つけた。
悲しいことに、場末のデリヘルだ。ちなみにデリヘルはデリバリーヘルスと言って、お客さんに性的サービスを提供してくれる女の子が在籍するお店のことだ。
たった一週間にも満たない期間で、まりは華の大学生から一転してデリヘル嬢へと身を堕とすことと相成ったのだ。
しかも、セックスがサービスの中に含まれており、明らかに風営法に違反しているのだ。もはやデリヘルという皮を被った売春宿である。
もちろんまり自身も初めからこんな体を売る仕事をしようとしてた訳ではない。彼女は昔の日本ほどの貞操観念があるわけではないが、しかし、乱れた性生活を送るような女でもない、ごく一般的な観念を持つ人間であった。
初めは、キャバクラで働こうと思ったのだ。そこなら身分の怪しいまりでもいけると思った。
だから数日前のまりはまず手始めに、精いっぱいけばけばしいメイクをして、キャバクラの店員に雇ってもらえないかどうか山ほど掛け合った。もちろん、きちんと礼儀正しくお願いをして。
しかし、大抵身分証明の点でコケて、ほとんど門前払いを食らった。
いくら水商売と言えども、身分がしっかりしてないと駄目だったのだ。
まりは、ある男の人にこう言われた。
「お嬢ちゃん……キミ、わかってる?履歴書も書いてない上、身分証明も出来てないんだよ?いくら可愛くっても礼儀正しくっても、そんな怪しい子は雇えないなあ……」
彼は見た目の整った茶髪の男ではあったが、まりは目がとても怖かったと感じた。
それではじめて、自分の甘さに気がついた。あたしでもやれる。なんて、そんなことなかったのだ。
今のまりは不法滞在をする外人にも値するほどの怪しい女であることを、思い知らされた。
まりは心底惨めったらしい気持ちでいっぱいになったが、それでも雇ってくださいとお願いし続ける以外、できることは何もなかった。しかし、それも成功に終わることはなかった。
お金がどんどん目減りしていくのが怖くて、まりがまともにベッドで眠ったのなんか最初の一日だけだった。けれど、銭湯とコインランドリーが近くにあったので臭いを放つことだけはなく、最低限の清潔さを保てたのは幸いであった。
それに、どうしても眠い時にはカラオケボックスや東都環状線で眠ることが出来たことも救いだった。(ちなみに、同じ駅での出入りは出来ないため、隣の駅で下車しなければならなかった)
それ以外の時間はすべて、あちこちを駆けずり回る時間に使った。
そして、目に付いたキャバクラ全てに当たったけれど雇って貰えなかったまりは−−とんでもなく躊躇をしたのだけども−−、風俗店に掛け合うことにした。
最初はお触りなしのお店に行ったが、全滅した。
仕方なしに少しの接触があるお店に行ったけれども、そこもダメ。
雇用のお願いの回数が増えれば増えるほど、接触が過激になっていくお店が目立つようになって、最終的にまりを拾ってくれたのは、最後の営みまでがサービスとなっている、とあるお店だけだった。そこは地雷店と噂されているようで、まりの耳にすらその話が届くほどであった。まりが面接を受けた事務所らしきスペースも噂に相応しい汚らしさで、店長も気味の悪い男だった。
だが、非常に幸いなことに、お金の取り分が店4:まり6だということと病気の有無を定期的に調べてくれるというまともさはあった。けれど、まりの気は落ちていくしかなかった。
当然だ。身元不明なお前を目をつむって雇ってやるんだから代わりにいつでもヤらせろ、なんて言われたのだから。そしてそれはまりにとって口にするのもおぞましい体験であった。
その時のまりの財政状況からしたらありがたいことではあったが、他の風俗店がいかにマトモ(・・・)だったのかまりはよくよく思い知らされたのであった。
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