06
「ウ、ウム、スマンなまり君、つい、だな。その……」
「い、いや大丈夫です」
(マズイマズイマズイ。警察!?冗談でしょ!?十三さんたち自体はめちゃくちゃいい人だけど……今はダメだ!ええと、どうしようどうしよう……)
そう思いながらも、まりはなんとか取り繕った。そうこうしていると、
「まりちゃん、別に犯罪に巻き込まれた訳じゃないのよね?」
と、みどりがまりの援護をした。
「は、はい」
「誓ってだね?」
「あなたっ!」
更に言い募ろうとする十三に、みどりが声をか少々荒げた。
「えーと、はい。誓って犯罪絡みの悩みじゃ、ありません」
「それならよかった」
(た、助かった……みどりさん、ありがとうございます…)
まりは、ほっとして少し肩の力を抜いた。
(でも、早いところ退散しなくちゃなあ。こんな怪しい状況を十三さんに知られたら、きっと大変なことになると思うんだよね。いくら優しい人たちでも、あたしみたいなのを家においてくれるなんて思えない。
ともすれば、精神病院に突っ込まれたり、あらぬ嫌疑をかけられて牢屋に入れられちゃうかもしれない。
よし、今日のところはひとまず帰ろう。――あ、帰るところないのか。じゃあ、ビジネスホテルにでも泊まろう。疲れたし、そうしよっと)
「あの、心配してくださってありがとうございます。でも、私は大丈夫です。
それに、こんなに美味しいご飯まで……とっても嬉しかったです!でも、その……私、そろそろお暇させていただこうかと思います」
まりは美味しかった、の語意を強めて言う。
(本当、うちのお母さんよりも料理上手かもしれないわ……。)
「ええ、もう帰っちゃうの?さみしいわねえ」
みどりは手を頬に当て、至極残念そうに言った。
言動からしておそらく多分30代前半の彼女は、しかし年齢を感じさせない若々しい美人である。
「そうか……辺りはもう暗いな。よし、ワシが君を送ろう」
「だ、大丈夫ですよ!……あ、いや、やっぱり緑台の駅までお願いします」
(仕方ないか。送る送らないの問答が起こるのが目に見えたからねえ……)
十三が、立ち上がる。廊下まで三人で歩いていったその時、みどりがまりに連絡先を書いた紙を渡した。
「はい、私たちの連絡先よ。……気をつけて帰ってね、今日はとっても楽しかったわ。いつでも遊びに来ていいのよ?」
「わ、ありがとうございます……今度お礼に伺うときに、私から連絡しますね!」
(携帯使えないんだよなー。うーん、どうにか生活基盤作ったら、きちんとお礼しに来よう)
折りたたまれたそれを、まりはいそいそと鞄に仕舞った。
「ええ、じゃあまたね、まりちゃん」
「はい!みどりさん、また今度!」
玄関前でそう挨拶をし合って、まりと十三は家を出た。
「十三さん、あの……私のこと気にかけてくださって、本当にありがとうございました」
「いや、いいんだよ。またウチに飯でも食べに遊びに来てくれ。家内もワシも、君が気に入ったよ」
「はい、もちろん!」
(ほんっと、いい人たちだなあ……風が目にしみるよ。警察ってのが、ちょっとひっかかるんだけどねえ)
「しかしのォ……あんまり、溜め込みすぎるのはいかんぞ?毒だからなあ。
何かあったら、ワシが力になるから、まり君は、いつでもワシらに頼りなさい」
そんな力強い言葉をまりに送る十三。まりはその言葉にいたく感動した。
(ああ〜十三さん、すっごい男前!あったかいなあ……)
そうこうしている内に、駅前にたどり着いた。
(はや!こんなに駅から近かったんだ……)
ひたすらうろうろしていても土地勘を得られなかったまり。彼らの家から駅があまりに近場すぎて、驚いてしまった。
「じゃあ、今日は本当に本当に、ありがとうございました!」
「ウム。まり君、また遊びに来なさい」
そしてその日、まりは昼間空宿で見かけた安いビジネスホテルで寝た。
次の日、貰った紙に目暮十三・目暮みどりと書いてあることに気付いて、仰天することになるが、まりはそれをまだ知らない。
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