03
それから二時間がたった。
落ち着くために、何度も何度も深呼吸を繰り返して、コーヒーがお代わり自由だというので、何杯もそれを飲み干した。
(ああ、やっと落ち着いてきたかも……)
そして、ようやく冷静になるのであった。
(まず……たぶん、あたしが今いるのは新宿だけど、新宿じゃないところ。っていうか、空宿。そしてここは東京だけど、東京じゃないところ。ただ、"2013年の東京"なのは確かだと思う。電光掲示板に書いてあったから。ああ、ややこしい。
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で、だ。あたしはおそらく、まあ、言うなれば――パラレルワールドにでもいるんだと思う。それも、ただのパラレルワールドじゃない。名探偵コナンの世界の、パラレルワールド。江戸川コナンって呼ばれてたあの人、どう見ても20は越えてたし……。
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っていうことで、いいのかな?……その、彼の言ってた"真実の仮定"っていうのは。
すんごい、すんっっごいありえないことだけど……。でも、こうじゃないと、説明がつかないことが、多すぎる)
こんな結論を出したのだった。
沈痛そうな面持ちでずっといたものだから、まりは何度かまりを心配したウエイターに声をかけられていた。
ついでに、こっそりアドレスを渡されて、ナンパされていた。
電話かメール、してくださいね!なんてフキダシの先に、かわいらしい絵が描いてある。
割とナンパには慣れているまりは、それを貰って、逆に少し落ち着いたような気がした。
(あー、なんかパラレルワールドっていったって、あんまり変わらないんだなあ……。ちょっと、元気出たかも。
でもお兄さんごめんなさい、今ナンパ受けてる余裕ないや。携帯動かないし……あと、家も探さないといけないしね)
近くのテーブルを掃除している彼をまりが見つめると、気恥ずかしそうに赤くなっていた。
(でも、字もうまいし、なんか賢そうな人だなあ……。み・つ・ひ・こ、だってー。ふふ。いい人みたいだし……うーん、ちゃんと余裕できたらお茶にでも誘ってみようかなあ)
と、考えて、渡された紙のコースターは鞄にしまうことにした。お金がきちんと使えることを確かめて、お会計をして外に出た。落ち着いて見てみると、やはり新宿とは気配の違う街並みであった。
(……とりあえず山手線に乗って、こっちにある――のかわからないけれど、あたしの家を探そう)
そして、もう一度空宿駅に挑戦することにした。
今度はきちんと切符売り場までたどり着くが、そこに書いてあった路線は、東都環状線なんていう、都営の地下鉄にも似た名前をした鉄道だった。
(まんまるだから、たぶんこれが山手線なんだけど……中央線とか、ものの見事に消えてる……
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えっと、気を取り直して見てみよう。――んと、空宿…に、小久保…が新大久保かな?に、緑台……ん?)
「……緑台?」
池袋が沢袋だとか、日暮里が夕暮里だとか秋葉原が夏葉原だとか、もじりの見受けられる駅名は多々あるのだが、高田馬場をもじった駅名は、見つけることができなかった。
(お父さん、お母さん……)
まりは不安になった。そして、もしかすると、自分の家はないのかもしれない。そうも思った。しかし、その思いをふりきって、一度緑台まで行ってみることにした。
そして、下車。
(……空宿の雰囲気は新宿に近かったけど、こっちは全然違うなあ。騒がしさのかけらもなくて……なんていうか、ちょっとのどか。木とか、緑がそこそこあるからかな。
高級住宅地っぽいところもあるみたいだし……やっぱり、違うのかなあ)
緑台駅周辺を歩いてみるが、得られそうな手がかりは見当たらない。
「はあ……一応、歩いてみよっかな」
けれど、それでも探さずにはいられなかった。
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