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(光彦さんがこの時期にバイトしてるのって、店長のためなんだ……はー、なるほど)

 なんてまりが感心していると、コナンが彼女の肩を指先で叩いた。

「まりさん、この後時間ありますか?」

「ええっと、すみません。予定が……」

 まりは今日もバイトの合間を縫ってここへ来ていた。ゆえに、また戻らねばならないのだ。再び見知らぬ男に抱かれ、お金をいただかなければ彼女は満足に眠ることも出来ない。気は進まないが、少しでも多い額を稼がねば彼女の焦りはやまないのだった。

「以前連絡を入れると言った件のカタがつきそうだったので、偶然お会いしたことですし、よろしかったら今日にでも……と思ったのですが、そうですか。またお伺いを立てますね」

「よろしくお願いします」

 あっさり引き下がるコナンに対して申し訳無さそうな様子でまりが断りを入れると、話が見えていない光彦が、ついに切り込んだ。

「お二人はもしかして、依頼の関係でお知り合いなんですか?」

 これは意外にも、数日前に光彦がコナンに尋ねていなかったことだった。なぜまりの後を追っていったのかということに重きを置きすぎて、こちらの方の疑問にまで気が回っていなかったのだろう。

「いや、さ。ちょっと探してた人の顔見知りかもしれなかったんだ。結局別人だったんだけど、俺そっちの方とも知り合いでさ。そいつが彼女に迷惑かけたんで、時間もらおうと思ってたんだ」

「……そういうことだったんですね。でも、それでしたら、別に構いませんよ?」

 できればコナンとあまり交流を持ちたくないまりにとって、それはわざわざ面と向かって話すことでもないと思った。そんな空気をまとわせて返事をすると、コナンは意味ありげな顔つきでまりを見つめた。それを見て、彼女の背は強くざわついた。

「いえ、僕の方から伺いたいこともありますし、できれば時間をいただけたらありがたいんですが……」

 そして、決定的に、声のトーンが変わる。

「だってほら。レイカさんのこととか、あるじゃないですか」

ーー「お嬢さん、お名前をお伺いしても?」

ーー「レイカです」

ーー「ではレイカさん、少々お伺いしたいことがあるのですが…よろしいですか?」

ーー(あ、しまった。……まあいっか)

ーー「はあ」

 ざわりと蘇る記憶。そこで自分は、黒羽快斗によく似た男に名前を聞かれた時、反射的に源氏名を口にしてしまったのではなかっただろうか。そう、思い至る。

「……あ、あああ」

(そ、そうだった……ッ!!! あたしこの人に、本名言ってないんだった!!)

 そこでようやく、己の失策に気がついた。背筋にヒビが入ったように思えるほどの緊張が走る。しかも先ほど、コナンはまりの名を呼んでいた。レイカが本物の名前でないことなどとっくに割れているし、疑われているのだ。探偵の前で無意味に嘘をつく者などいないと、何かしらの嫌疑をかけられているのだ。もしかしたら自分の違法行為にも感づかれているかもしれないのだと言うことに、まりは気付いてしまった。

「どうかなさいました?」

 わかっているだろうに、わざとコナンはきょとんとした顔でまりを見る。光彦も、どうかしたのかと言う顔で彼女を見ていた。二人分の視線に堪え兼ねて、机の下でまりは手をぎゅっと握りしめる。焦りは時間とともに増していた。

「あ、い、いえ。そうですね、や、やっぱりお話しは直接伺いたいです」

 かろうじて、といった調子でそう答えるまり。光彦がいる手前、彼女はどうすることも出来ない。目の前の男がわざとこの状況で約束を迫っているのだと理解しながらも、頬をひくつかせて、是と返すしかできないのであった。

「ええ、お手数おかけしますが」

 コナンは笑みを浮かべながらも、目は彼女のすべてを見通すような冷静さを保っている。そんな彼の視線に冷や汗が流れるのを感じながら、まりの心の中は一刻も早くここから立ち去りたいという思いでいっぱいになっていた。


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