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 仕事のない日に図書館に行ってみると、図書館のパソコンはフィルタリングがかかっているもののある程度のネットサーフィンができるらしかった。これ幸いとパソコンを借りようと思ったはいいが、図書館カードを作るには身分証明書が必要だったので、利用ができなかった。

 前回そのことに気がつかなかったのは、単にパソコンを使わなかったからだ。こちらの時代の変遷に少しでも追いつこうという狙いもあって、1994年からの新聞紙を必死で読み漁ったのだった。

 仕方が無いので、まりは会員登録の必要がない漫画喫茶のパソコンを使うことにした。そこで事実が判明すれば上々、読めばいい新聞の時期を特定出来れば次善かといった気持ちで検索を始める。

(うーわー、こっちのゴシップも随分えぐいねこれ)

 まりが開いたのは、黒羽快斗の泥沼愛憎劇が赤裸々に綴られたホームページ。あの世界的マジシャン黒◯快◯、離婚の危機か!?なんて見出しを見つけてしまい、野次馬根性に駆られてつい入り込んでしまったのだ。
 曰く、幼馴染の女性と2001年に結婚し、順風満帆な結婚生活を送っていたが、ある日浮気が発覚し、一方的に離縁状を叩きつけられたのだとかなんとか。このような内容が嫉妬と皮肉たっぷりにネチネチと綴られていた。

(検索に思いっきり引っかかってるから伏字の意味ないじゃん)

 ちなみに、日付は半年前である。まりが快斗と出会うよりも幾分か前の時期である。

(指輪してたのもあたしとエッチしてるのも本当だから、一部は本当なんだろうなあ。にしても流石有名人だわ、アングラサイトで叩かれまくってるよ……世界的に認められてて男の欲しいものみんな持ってるんだから、まあ仕方ないことなんだろうけどさ。
 そういえば幼馴染の奥さんってあの人かな、名前出てこないけど警察官の娘の)

 昔一度だけ読んだまじっく快斗の内容を思い出そうとする。曖昧な記憶の中で、少女が悪戯をする快斗を叱りつける絵面がぼんやりと浮かんだ。

(……あ、しまった。あたしが調べようとしてたの黒羽さんじゃなくてキッドじゃん。間違えた…….)

 知り合いの過去を三者視点からほじくり返すのは良くなかったなと思いながら黒羽快斗についての詮索はやめにして、怪盗キッドについて調べてる。すると一番上にWikipediaが、その下に「Wikipediaの記事が日本一長いページ」というタイトルのネットニュースが載っていた。

(ハハ……こっちの日本一はキッドなのね……)

 開いてみると、確かにスクロールバーがびっくりするほど短い。少々げんなりしながら読み進めると、1976年のパリで初めて怪盗キッドの存在が確認されたことから、1996年にぴたりと姿を消したことまでのキッドの犯行についてが延々書かれていた。おそらく熱狂的なファンが編纂に携わったのだろう。

"321件の美術品[81]をただの一度も捕まることなく盗みおおせ、世間の目を鮮やかに奪い去った神出鬼没で大胆不敵の大泥棒・怪盗1412号には、ICPO(国際刑事警察機構)により史上最高額(10億ドル)の懸賞金[82]がかけられた。尚、2013年現在もその額は更新され続けている"

(Wikipediaにしては若干詩的なのが気になる……ていうか、やっぱり活動してなかったのね)

 キッドはまりが組織が壊滅したとだろうと睨んでいる全世界要人一斉検挙と時期を同じくして、跡形もなく姿を消している。

(江戸川さんに正体知られてた……よね、確か。それなのに検挙されてないってことは、何か取引があったのかも。知りたくないけど)

 世界をも動かす組織と対立していた二人の男。組織が壊滅したのは恐らく正しい推測ではあるが、やはり深入りするべきではないことなのだろう。どのような事態に発展するのかもわからないのだから。とまりは考える。

(身元調べられたりするような怪しい行動は、絶対にとらないようにしよう)

 20にも満たない自分の浅知恵が、大ベテランの探偵と日本を湧きたてた大怪盗にどこまで通用するかはわからない。しかし気をつけるに越したことはないと、まりは改めて心に刻みつけた。


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