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その時、まりは新宿に居た。アルバイトで貯めたお金をありったけ持って、買い物に来ていたのだ。
散財するタイプではないので、あちこちを見回って慎重に吟味した。
そしてようやく見つけたのが革製の小物入れだ。長持ちするし、使えば使うほど味が出る。
丁寧に扱おうと決めて、それを購入する。
(……ん?)
小物入れを可愛らしい紙袋に入れてもらって、機嫌よく人ごみの中を歩いていたまりは、なぜだか突然、周囲に強い違和感を感じた。
(なんだろう……なんか、ヘンな感じ。)
不思議に思って、意識的にビル群やデパートそのものに目を向けてみる。あまり町並みというものに興味がないためはっきりとは分からなかったが、何かが違っていることは確かだ。
きょろきょろと辺りを見回して、都会特有のビルにくっついた大きな大きな液晶パネルに視線をとめた途端、大きな目は更に見開かれることとなった。
(え!?なにあれ!!)
それは、ニュースを放映していた。そして映し出された画面のテロップに、「名探偵 江戸川コナン氏 またも難事件解決!」と、書いてあったのだ。
そのニュースは、まりにとって驚くべきものだった。それは普通ならばニュースに出てくることのない名前。
しかし道ゆく人は、その"名探偵"を褒めそやす話題を口にしながらまりを追い越してゆく。
「へえ、やっぱ探偵ってすごいね」
「やべえ、あれ俺と同い年だってよ」
「江戸川コナンってかっこいいなあ」
「ねー」
(……ええと、ドッキリですか?)
まるでまり以外の人にとってはこれが日常であるといったような様子に、そんな疑いをもった。
ニュースの視点がスタジオに切り替わる。すると、横に長い白のテーブルにスーツを着た若い男性と、清潔感のある40代ほどの男性、その隣に若い女性が座っていた。
「こんにちは、ニュースの時間です」
三人が頭を下げる。
「本日は探偵の江戸川コナンさんにお越しいただきました」
女性アナウンサーが青年を示すと、カメラがそちらへ近づき、青年も「江戸川コナンです、本日はよろしくお願いします」と、薄く笑みながら挨拶をした。その堂に入った佇まいは、まりに年齢以上の落ち着きを感じさせた。
「今回の事件の真相は相当困難なものだったとお聞きしましたが……江戸川さんの見事な推理で解決に至りましたね。
そこでズバリ、お聞きします。みなさんも一度は気になった事があると思うのですが、江戸川さんは勘で推理なさったことはありますか?」
女性アナウンサーの方が、江戸川と呼ばれた青年にそう話しかける。
まりにはどちらのアナウンサーにも覚えがなかったし、番組のセットも初めて見るものであった。
(な、なんなの……?)
「そうですね……僕は、当てずっぽうの推測は決してやりません。捜査の際、探偵の勘に頼ることはありますが、証拠あっての推理です。
当てずっぽうなんて推理力をだめにしてしまう行為で、探偵のすることじゃありませんからね」
(あ……これ、聞いたことある。ええと……たぶんホームズの出てくる何かでなんだけど、思い出せないや……って、そうじゃない!これはドッキリなの!?)
巨大な液晶に釘付けになりながら、まりの頭は素早く回転する。
(いやでも、アメリカならまだしも、日本でこんなに大規模なドッキリなんか、できるわけない。それに芸能人ならまだしも、あたしみたいな一般人捕まえてこんな大規模ドッキリっていうのは……ありえないよなあ。……だって江戸川コナンって名探偵コナンのあの主人公のことでしょ?
昔よく見てたくらいで、そこまで漫画に詳しいわけでもないし……ああもう意味わかんない。もしもドッキリだとしたって、これは……ううん、かなり局所的だし、分かりづらすぎる。……でも)
江戸川コナンと呼ばれたその男性は、25歳ほどだろうか。その顔は工藤新一が立体化したかのような面影がある。CGのような違和感があるわけでもなく、きちんと人間らしさの漂う顔だ。
先日ネットニュースでロブルッチととある日本人モデルがあまりにも似ている、という内容のニュースを見たが、まりも「確かに」と頷くほどの類似ぶりであった。
まるでそれと同じように、彼が工藤新一そっくりであると思ってしまった。
それに、声も非常に聞き覚えのあるものだ。特徴のあるいい声。コナン以外に、犬夜叉やらんまでもお世話になった、非常に懐かしい声である。
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