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 −−と、まあ、こんな出会いがあった訳だ。
 それからまりが快斗から家を与えられるまでに、大して時間はかからなかった。




 −−−−そして時間は、再び戻る。




「おーわった!」

 ホクホク顔で貴金属店から出てくるまり。何時間もかかってようやく金の購入を終えたのだ。結果、10g単位で分けられた純金が、ある程度の数、手に入った。
 時間を要したのは、悪目立ちすることを避けて何軒もの貴金属店をハシゴしたためである。
 自意識過剰すぎた行動かもしれないが、まりのような若い女が「金を10gずつ小分けにして売ってくれ」なんて言いながら札束をポンと出せば、表ではどうあれ少なからず怪しまれるに決まっている。しかも装飾品ではなく、ただの金なのだ。
 何が起こるかわからないこの世界。ある程度の警戒は必要だと常々感じている。よって、まりは時間を無駄にしたとは思っていない。

 ともかく、本日の目的を達成することができたまりは、満足感を味わっていた。

(よーし、あとは帰るだけ!)

 純金の入ったエナメルバックをしっかり持って、帰宅の途に就く。
 大きな資産を持っているときに何かあっては大変だと思いスニーカーを穿いているため、自分の足音がずいぶんと大人しく感じられる。
 基本的にハイヒール系統の靴ばかりを使用しているため、まりは女の武器をひとつ外したような気分になる。
 けれども、足取りはいつもよりもずっとしっかりしていた。

(あ〜、残念。引っかかっちゃった)

 待ち時間が異様に長い信号機がある所としてよく知られる歩道。そこに差し掛かった際、出来るだけ急いだけれども、まりがたどり着く前に青色のランプが点灯を始めてしまった。
 数名車を気にしつつも渡って行ってしまう者も居たが、それがこの歩道では非常に危険な行為であると知っているため、まりは大人しく待つことにした。
 そして"もううんざりだ"という他人の心の声すら聞こえそうなほど待って、ようやく信号が青になる。

 やっとか、という雰囲気が辺り一面に漂った。次の瞬間にはそれも霧散して、人々は動き始めた。
急いで渡らなければすぐに黄信号になってしまうので、まりもさっさか進んだ。
 前方からも同じようなスピードで人の群れが近づいてくる。ぶつかってしまわないように気を使いながら歩く……が、他の人を避けるためか急に鞠の方へ転換してきた男とタイミング悪くも衝突してしまう。

「っキャ!」
「うわっ」

 と肉体同士がぶつかり合って、鼻っ柱に痛みが走る。双方ともに早歩きであったが故になかなかの衝撃であった。
 その慣性にまりの体は耐えられず、踏ん張りもむなしく傾いた。

(やば、転ぶ)

 と思って、とっさに目をつむる。
 こういう時にはすべてがスローになるものだ。ああ怖い。待ち受ける痛みを予見して体を固くする。
 しかし、それよりも先に男がまりの体を引き留めた。

「おっと」

 体に感じる他人の熱。

(た、すかったあ)

 まりはホッと息を吐いた。

「ぶつかってしまってすみません、お怪我はありませんか?」
「えと、はい、大じょ……?」

 しっかりと抱きとめてもらったから多少鼻が痛むくらいだな、とわずかに考えながら、聞き覚えのある声に反射的に顔が上を向く。

「……新一さん?」

 目の前にあるのは見覚えのある造形。

「…………じゃ、ないですね。すみません、人違いみたいです」

 しかし、彼ではなかった。
 瓜二つで、遠目から見たら同一人物にも見えるかもしれない。

 けれども、新一……と名乗る快斗の顔を飽きるほど見ていたまりには、間近で見るこの男が快斗よりもいくぶんか若いことがわかったのだ。
 つい先日会った時よりも髪が長いことも判断の理由の一つであるし、なによりまりを見ても何の反応も示さないのだ。快斗なわけがなかった。

(よく似てるけど、別人だ)

 と、心の中で頷いた。

「……あ!!」

 信号機を見て声を上げる。青のライトは既に点滅を始めていた。

「あの、えっと、ぶつかってしまってすみませんでした!助けてくださってありがとうございます!それじゃ!」

 不快にならない程度の早口でそう述べて、会釈をして男から離れようとする。
 周囲の人は概ね渡り切ってしまっているが、まりと男は未だ歩道の上なのだ。

「……あ、の?」

 しかし、男に新たに手首を掴まれてしまって、離れることが出来ない。

(え、なに!?ちょっと、もう……急いでるんだって!)

驚いて再び男を見ると、まりのよく知る顔によく似た造形は、目を見開いたまま固まっていた。



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