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「う、わあ……なんか凄そうな指名だとは思ってたけど、帝戸グランドホテルってこんなに大きかったの!?」

 まりは「まり、行ってこい」と少々興奮しながら言う店長に派遣されて、帝戸グランドホテル前にいた。
 いつもとは違うその様子にまりは戸惑ったが、彼女なりに意気込んでいた。鼻息を荒げた店長の「うまくいけばかなりいい客になるに違いねえから、いつも以上にしっかり奉仕しろ」とまりに強く言い聞かせた言葉が頭を巡る。
 そして辿り着いたホテルは、いつも呼ばれるホテルなんかよりもずっと大きく厳かで、いかにも一流ホテルですといった雰囲気を入り口から漂わせていた。
 しかしそれは当たり前のことである。世界的に有名な快斗が泊まるホテルがそこらへんの安っぽいラブホテルやビジネスホテルと同等なわけがないのだ。

 (あたし場違いすぎない?)

 入り口のホテルマンたちに深々とお辞儀をされながら、カウンターまで向かうまり。
 カウンターに座っていた女性が綺麗にお辞儀をして、「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」と愛想良くまりに尋ねた。

「あのう、1203号の新一という方に用があるのですが――」

 まりは周囲の雰囲気に萎縮しながらも、そう答えた。
 受付のホテルマンはその名前に一瞬ためらった様子を見せたが、すぐさま笑みを浮かべて、「はい、1203号室の新一様でいらっしゃいますね。お伺いしております。では、こちらへどうぞ。向かって左のエレベーターのみ12階に通じておりますので、ご注意ください」と滑らかに対応した。

「あ、ありがとうございます」

 まりはホテルマンにそうお礼を伝えると、一基だけ明らかにグレードの高い装飾が施されたエレベーターに乗り込んだ。


***


 快斗はホテルを実名で利用している。
 電話を終えてしばらくしてからそのことを思い出したため、新一という偽名をとっさに使ってしまったのは完全な失策だった、とすぐに後悔した。
 しかし時既に遅く、ホテル名も部屋番号も告げてしまったのだ。
 きっと、そのまま放置すれば受付から電話がかかってきて一応の確認がされるだろう。快斗はそれに知らないと答えればいい。しかし、そうすればせっかく受付まで足を運んだというのに、嬢は怪しまれて追い出されてしまうだろう。
 そんな状況は流石に可哀想だと思ったため、自分のテンションの蒔いた種だと諦めることにして、「1203の新一に会いに来たと言う女がきたら、俺の名前を言わずにすぐに通してくれ」と急いで頼んだのだ。
 勘のいいホテリアにはなぜそのようなことを頼んだのか気付かれてしまっただろう。と快斗は後悔した。
 快斗はホテリアたちにブス専だと思われるだろうことに対して若干の冷や汗をかいた。

 (チクショー、もうこのホテル使いたくねーなー)

 とりあえず時間稼ぎのためにもシャワーを浴びるのは嬢が来てからにしようと考え、気を紛らわせるためにトランプを弄りだした。

 しばらくして、入り口のベルが鳴った。来た、と快斗は身をこわばらせながら、扉を開いた。
 どんなモンスターが現れるのだろう。快斗はそのことで頭がいっぱいだった。

(あークソ変に冒険なんかしなきゃよかった、やっぱ嗜好変わったなんて嘘だ、綺麗なお嬢ちゃんが好きだよ俺は。
なんで久々の休日にこんなことやってるんだ俺)

などと考える快斗。すでに後悔の連続であった。

「えと、こんにちは。レイカです。」

 しかし、そこに立っていたのはとても風俗に身をやつしてしまったようには見えないほどの美少女だった。しかもずいぶんと若く、スタイルも日本人にしてはいい。快斗は一瞬前にげんなりしていたことを忘れて大喜びした。

 (すげえかわいいじゃねーか!)

 快斗は人一倍美的センスに優れている。怪盗KIDであったときにはさまざまな宝石に囲まれていたし、世界中で公演を行うたびに美女に囲まれているからだ。その快斗をうならせたのは、客観的な美的感覚も一因であるが、なんといっても緊張感から一気に解放されるほどの想像と現実のギャップの落差、それからまりが快斗の好みの女性であったという点にある。

「こんにちは、俺新一。とりあえず、こっちおいで」

(美人バンザイ!)

 快斗はすぐに切り替えて、まりの肩を抱いて部屋に入れたのだった。



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