04

「なにしてんだ、てめえ」

扉が開いて数秒してから、ジンの声が部屋に響く。
まりの行動が理解できないようだった。

「出てこい」

しかしどうしようもないので、暴力に訴えられる前にまりはしぶしぶベッドの影から這い出た。いきなり激しく動いたものだから、首と足が攣ってしまっていた。

(っつ……)

うめき声を出すことすらシャクなので、無言でしかめっ面をする。

「座れ」

ベッドの上に戻ったまりに示されたのは、ベッドのそばの椅子。シックでお洒落な黒いそれは二脚置かれていた。片足を引きずりながらも何とか座れば、ジンは次に食え、と言った。

「え、えっと」

がさりと机に置かれた白いビニール袋。
腹には見たことのないロゴマークが入っている。どこかのコンビにのものだろうと推測できる。
まりが困惑しながらも取り出してみれば、お茶とパン、それからチョコレートが入っていた。

どうしていきなり待遇が改善されたのか不思議でならなかった。
疑問に思ってジンを見上げると、ジンは再びまりを促した。

幸いお腹は減りに減っていたので、ありがたくもないが、頂戴する。
どれも未開封なので、少しだけ安心して食べることができた。

(な、なんなの)

ジンがもうひとつの椅子に座って食事を続けるまりをどんな感情が込められているのかわからない目で見つめるものだから、まりは小さく縮こまってしまいながら、咀嚼音が響かないようにもそもそとパンを口に詰め込むことしかできなかった。

(コロッケパンのはずなのに味がしなかった)

お茶で流し込んで、カロリー摂取を終わらせる。そしてジンの言葉を待とうとするまりに、ジンは再び食え、と言葉を発した。
どうやらパンだけでなく、チョコレートも口にしろという意味らしい。しぶしぶひとかけら口に放り込んで、舐めきる。だが、やはり味がしなかった。

「も、十分……です」

まりを凝視するジンにそう告げれば、ジンはそうかと一言言った。

「あの、私の疑いは……」

「晴れた」

おずおずと伺えば、彼女の欲しかった言葉が返ってくる。そうか、だからこんなことになっているのか!と一気に心が晴れやかになって、希望で胸がいっぱいになる。

「じゃあ、解放してもらえるんですね?」

と、嬉しさを噛みしめる声でまりは尋ねる。一刻も早く家族に、友達に、飼っているペットに会いたかった。
しかし現実は無情だ。ジンは頬を吊り上げて、いいや、と答えた。

「なんで!?」

まりは悲鳴を上げる。絶望感に支配された。

「てめえは知っちゃあなんねーことを知ったんだ。外に出せるわけねえだろ」

「……。……あたしを、殺すの」

先ほど涙をこぼしていたからか、涙腺が再び緩む。だが根性でぐっと堪えて、感情をこの上なく押し殺した声で、まりはそう尋ねた。

「その目だ」

まりが今何よりも知りたい疑問を無視して、ジンはニヤリと笑った。

「俺はその目が気に入った」

椅子から立ち上がり、まりの目の前に立ちふさがるジン。腰から体を曲げて、まりの顔を覗き込んだ。

「普通のガキができる目つきじゃあねえ、その根性座った目だ。てめえがさっき俺に唾を吐きかけてきた時も、そんな目をしていやがったな。子鹿みてえに怯えちゃあいるが、肝心な時にそんな目つきが出来るたあ、将来有望じゃあねえか。なあ?」

くい、とまりのあごをジンの手がとらえる。まさか意識がもうろうとしていた時にそんな行動をとっていたとはゆめゆめ思っていなかったまりは内心驚きながらも、至近距離に迫ったジンを強く睨みつけた。

「おまけにあの強力な自白剤で吐いた個人情報は全部偽物で、精神もぶっ壊れてねえときた。こっちの調査でてめえが関係ねえことは掴んだが、その誰に向けてるかもわからねえ忠誠心も、気に入った」

「……はあ?」

「ックク……いいさ。いずれにせよ、てめえは俺が飼って、育ててやる」

言っている意味はさっぱりわからないが、つまりは、すぐに殺されるということはないのだろう。そう理解して、一先ずはほっとしたまりだが、この上なく安堵のできない状況であることは否応無くわからされた。
ジンの指が頬を滑って、唇に割り込む。

「ぜったい、やだ」

歯を開いて、ジンの人差し指を口内に招き入れる。第一関節のところで思い切り噛み付いてやれば、ジンの指に歯が強く食い込んだ。

「それでいい」

噛み切ってやろうというほどの力を込めているのに、ジンは痛みを感じていないような顔をして、ニヒルに笑んだ。

おわり


*prev next#
back to top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -