04

 なんとか持ち直して、ようやく十三たちの娘であることの嬉しさを噛み締めた三日目の放課後については割愛するが、まりの舞い上がり方が凄まじかった、ということだけは明記しておく。

 今日はおかしな事態に陥った、四日目の朝である。まりはみどりに用意された朝食を頬張っていた。
 40回は噛みなさい、というみどりの言葉に素直に従うが、口が小さく、なかなか食べ進められない。なかなかもどかしいものだな、とまりは考えていた。

 さて、前日まりが偶然(・・)聞いた少年探偵団の内緒話によれば、今日から彼ら−−江戸川コナンと灰原哀−−が登校してくるらしい。
 それとなく探ったところ、7歳のまりは、入学式から帝丹小に通う一般の女の子であるらしかった。つまり、以前のまりがどのような少女であったかなどは定かでないものの、まりの肉体と精神のちぐはぐさに明確に気づかれることさえなければ、彼らに邪推されてしまう−−例えば、組織の追跡者ではないかと疑われたりする−−ことなんかは、ないだろう。
 また、あの三人とまりは良くも悪くもただのクラスメイトという関係であったことが、昨日一日で判明した。
 ゆえに、以前のまりが少年探偵団とどのような関係にあったかは、一目瞭然であった。
 まりが余計な首を突っ込まなければ、ただの小学生として過ごせるに違いない。まりはそう思った。

 実のところ、まりは四日前までいた時代に戻るつもりなど、さらさらなかった。
 もちろん、自分が生まれた世界に戻れるならば今すぐにでも戻りたいと思っている。けれど、どのようにすれば帰れるのか見当すらつかない。奇跡を夢見て待ち続ける以外に、まりにはどうしたらいいかわからなかった。

 だから、どうせ生きるのならば娼婦として辛く惨めに生きるよりも、目暮夫妻の娘としてぬくぬくと大切にされながら育つ方がいい。そう思わずにはいられなかった。
 ゆえに、まりはこちらの世界に馴染んでいこうという気概を持ち始めていた。

「い、いってきます!」

「いってらっしゃーい、気をつけなさいよー」

「き、気をつけま……気をつけるね!おおか、お母さん!」

 みどりのいつもよりも砕けたその言葉遣いに喜びを感じながら、思わず敬語を使ってしまいそうになるのを抑える。目を覚ました時にまりは彼らを十三さん・みどりさんと呼んでしまい、泣かせてしまった。これに、まりはトラウマにも似たものを覚えている。(その過度の反応に当然疑問を抱いたが、解消することはできなかった。)だから、まりは彼らのためにも極力子供でいようと思っているのだ。

(昨日十ぞ……お父さんに一緒に行ってってゴネてよかった……でなきゃ今頃迷子の上遅刻してただろうなあ)

 勢いよく家を出て意気揚々と歩くまりは、そう考える。
 昨日の朝、身体のどこを探っても定期が見つからなかったため、もしかしたら徒歩通学かもしれないと思ったまりは仕事に行く支度をしていた十三を捕まえて一緒に登校したのだ。
 ちなみにその時、まりは十三の部下である高木渉と佐藤美和子に遭遇している。まりとは顔なじみらしく声を掛けられたのだが、驚いて十三の後ろに隠れてしまったため会話は成立しなかった。数時間後、まりは彼らが"佐藤刑事"と"高木刑事"だったのだと気付いた。この時にはまだ結婚の「け」の字すら出ていないんだろうなあ、とまりは密かに笑った。

 緑台から米花町まで歩いて、帝丹小まで行く。
 校門をくぐり抜けて教室へ入れば、数人の幼い子供たちと、見た目にそぐわぬ知的な目をした少女と少年が二人、まりを待ち構えていた。



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