03

 黒の組織が絡んでいると睨まれた事件のために博士とともに軽井沢まで来たコナンと哀。しかしその事件は、謎に満ちてはいたもののの、いざ紐解いてみれば実際には黒の組織とは何の関係もない、綿密に練られたただの怨恨殺人だった。(ただの、という表現を殺人に使うべきではないだろうが、それほどまでに、彼らはこの件に注目していた)

 故に、犯人の検挙に影で一役も二役も買ったはいいが、肩を落とさざるを得ない二人であった。

「なあ、灰原」

 そんな彼らの帰り道、博士の運転するビートルの後部座席に座るコナンが、隣に座る哀に話しかけた。

「何よ?」

「オメーさ、まりちゃん……じゃなくて、目暮まりって知ってっか?」

「あら、バカにしないでくれる?目暮さんなら、私達のクラスメイトじゃない。−−それも、とびきりセクシーな、ね。」

 腕と足を組み、ニヒルな笑みを浮かべる哀。そんな哀の言葉にコナンは昨日のまりの痴態を思い出してしまう。
小学生とは思えないほど色っぽい声を張り上げた彼女が何の予備動作もなしに達してしまったのだろう、という結論に行き着くことは、そう難しいことではなかった。なんせ、いたずらにそんな声を上げたならば恥ずかしさのあまり気絶するなんてこと、あるわけないのだから。そんな彼女を思い出して、コナンは思わず顔を赤らめた。

「って、ちょっと江戸川君、何赤くなってるのよ。……まさかあなた、その気があるんじゃないでしょうね」

「その気ってお前」

「もちろんロリコン、だけど?……あら何、図星ってわけ?」

 やれやれ、と肩を竦めて手を広げてみせる哀。おまけに溜息と呆れの入った視線をコナンに投げつけた。

「バ、バババーロー、そんなんじゃねーよ!アホか!
俺はあの子が目暮警部に引き取られた(・・・・・・)頃から知ってんだぞ、欲情なんかしてたまるか!」

「……あなたねえ、もう少しそういう感情の統制効かせた方がいいわよ。
まあ、あのときの彼女は驚くほど扇情的だったから?江戸川君が彼女に惹かれても?仕方ないとは思うわよ、私は」

「……勘弁してくれ」

 コナンが顔をひくつかせながら、まいった、と頭に片手をやる。
 すると哀はもう一度大きく溜息を吐いて、冗談よ。と言った。既に哀の声にからかいの色はなかった。

「で、その彼女が何?」

「あ、ああ……どう考えても、様子がおかしかっただろ?灰原ならなんかわかるかと思ってよ」

「そうね。……彼女、もしかしたらPSASを発症したんじゃないかしら、とは思ったわ」

 真剣な顔をして、哀はそう言った。

「……ポリスチレンとAS樹脂?」

「違うわよ、バカね。PSとASじゃなくて、PSAS。Persistent Sexual Arousal Syndrome−−つまり、持続性性喚起症候群のことよ。」

「ああ、それなら俺も聞いたことがある。
確か、長期の……その、性的興奮が、突発的に続く症候群のことだよな。極めて稀である上に、患者が恥ずかしがって人に言わない場合が多いっつーことが特徴だって……



ってオイオイ、あの子まだ7歳だぞ?
少なくとも二次性徴が始まってねーと……よくは知らねーけど、それって神経系の発達に関係とかあるだろ?」

 思わずコナンは半目になる。

「そうね。普通に考えたらおかしなことだわ。でもこの症候群の報告例は非常に稀で、治療法も原因もはっきりしてるわけじゃないから……彼女がPSASでも、おかしくはないのよ。
原因は様々あるけど……恐らく、トラゾドン系の薬を飲んでるんじゃないかしら。−−彼女、両親を事件で亡くしてあの警部の養子になったんでしょう?考えたくもないことだけれど、場合によっては不眠とか鬱で飲んでるってことがあり得るかもしれないわ。

彼女の両親は−−いつ?」

 哀の会話に補足をするならば、鬱の回復に役立つと言うトラゾドン塩酸塩という成分の含まれたクスリを飲んでいた人の中に、ごく稀にPSASを発症する人がいるのだ、というところだろうか。
 そんな彼女の発言に、コナンは胡散臭そうな顔から鎮痛そうな面持ちへと移り変わった。

「……一年前、な。俺の追ってた連続殺人鬼がよ……。彼女は咄嗟にご両親に隠されて難を逃れたんだ。こっちが心配になるくれー気丈に振舞ってて……。そんで、母さんがまりちゃんのことエラく気に入っちまってさ。引き取るって聞かなかったんだけど、結局親戚の目暮警部が申し出たんだ。……まあ、だからそんな薬に頼ってる可能性も、なくはねえな」

「そうね……なら、彼女に明日それとなく聞いてみましょう。もし飲んでるなら、絶対に辞めさせないと」

「ああ、そうだな……っと、着いたな」

「おおそうじゃ新一、冷蔵庫に美味いケーキがあるからウチで食べていかんかの?」

「そーだな、もらってくよ。博士、あんがとな」

 二人の話にキリがついた頃、博士の車は博士の家に到着した。
 落ち込んでいる二人に話しかけずにいた博士が初めて口を開き、コナンをお茶に誘った。
 博士の心遣いを感じながら、コナンは哀と博士と家の中へ入って行った。



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