石川五エ門
「ありゃ、珍しいー!五エ門ちゃんどったの?」
「たまたま通りかかった故。」
「そっかそっか、上がってきなよ今次元も居なくて暇してたの!もうそろそろお昼だし!」
久々に会った五エ門はいつも通り飄々とした面持ちで
玄関に立つ侍というシュールな光景を産み出していた
私が招き入れれば「かたじけない」と言って草履を脱いで中に入ってくる
「五エ門お昼食べた?簡単な物なら作れるけど」
「頂こう。」
「梅干しと鮭の塩焼きでいい?和食はそれくらいしか今の材料では無理かなー。」
「十分でござる。」
会話をしながらもテキパキと手を動かし料理を進める私
椅子にです座り静かに目を閉じている五エ門
一歩間違えればどこぞの熟年夫婦のような構図に少し笑った
「ほいっ、出来たぞ!」
「かたじけない」
「どーぞ」
いただきます、と言って手を合わせた五エ門の前には卵焼きに味噌汁、梅干しに鮭が並び
確認したものよりも遥かに和食らしい和食が並んでいた
頬杖をつきながら五エ門を観察する
箸をとり一番始めに手をつけたのは卵焼き
そう失敗はしなくても拘り始めると何処までも追及することになる物だ
「やはりツカサのご飯は美味しい。」
「ん、そう?ありがと。」
いつも通りの表情の殆ど無い顔で言われたお礼
慣れていなければ不味かったのかと心配になるほど仏頂面だ
しかし何年もつき合っていれば自然と分かるようになるもので五エ門は美味しそうにご飯を平らげているだけ
止まる気配の無い箸に右側の唇のはしが少しつりあがっているのがその証拠
美味しいものを食べたときには必ず現れるその癖を見つけたのはずいぶん前だけどその頃から全く変わらないその癖に少し笑みを浮かべた
「そんな急いで食べなくても無くならないよ、ほっぺたにご飯粒ついてるし。」
「...む.......」
私が五エ門を見てからからと笑うと今気がついたと言わんばかりに食べる速度を落とす五エ門
ふと見せるこういう表情は面白いものである
「おかわりいる?」
「ああ」
夫婦?いいえ、仲間です。
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