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「なぁ」

「なに、ぽっぽ」

「俺たちのやってきたことってさ...」


隣に座ったぽっぽがいつになく落ち込んだ声を出した。

それに条件反射のように返した私の声もなんとなく元気がない。

ぽっぽは途中で言葉を切ってそれ以上何も言わなくなる。

それも何も不自然なことなどではなかった。

あのとき私たちは突きつけられた言葉に何も返すことなど出来なかった。

その言葉は私たちの深い部分へと突き刺さったのだ。


けれど、ここで脱け殻に成るわけにはいけなかった。

ここで立ち止まれば後でどれ程の後悔を残すのか私には分かっていたから。



「そんなこと、そんなことない。少なくともめんまは喜んでる。私は…私は…」


まだ歩き続けなきゃ。そう続けようとして喉の奥に言葉が詰まって出てこなくなる。

いつの間にかぽっぽの両の腕でしっかりと抱き締められた私がそこにいて、私はぽっぽの肩口を涙で濡らすことしか出来なくなっていた。


「ここでは誰も見てねぇから、思う存分泣いちまえ。俺、昔より少しだけ強くなったからよ、かなたを他から隠せるくらいには大きくなったからよ」


耳元で心地のいい声が私に囁きかける。

なのに、涙は面白いほど溢れ出てきて止まらない。

ああ、彼は私を泣かせる天才かもしれない。

少しだけ、少しだけこの大きな胸を借りておこう。

涙が心に溜まって燻らないように。









あの後私は結局泣きつかれて彼の腕のなかで眠り込んでしまったらしい。

らしいと言うのは起きたときに叔父さんが私をそれでからかったからである。

泣きつかれて眠ってしまうなんて子供のようだと自嘲する。

ぽっぽもなにもわざわざ家に届けなくたって良かったのに。

別に秘密基地に寝かせとけばいいんじゃないの?と思ったり。

叔父さんに、お前もいっちょまえになってー!なんて言われた日には握り拳を作ってしまった程だ。

まぁ、もちろん振り抜いたりはしなかったが。



インターホンが来客を知らせるのはすぐだった。

叔父は平日の昼間だから当たり前のようにいない。

私は急いで玄関に駆け寄り来客を出迎える。


「ぽっぽおはよう!昨日はごめんね?そのまま寝ちゃったりして...重かったでしょ?」

「おー、気にすんな。重くねぇし、もっとちゃんと食えよ?ぶっ倒れたりしたら許さないからな!」

「倒れたりしないよー、ぽっぽったら大袈裟!」


おどけるように言ったぽっぽに笑いながらそう返せば、頭をくしゃりと撫でられる。

大きなあったかい手のひらが心地いい。


「あ、そうじゃないそうじゃない!めんまの家行くんでしょ?早く行かなきゃ!みんな待ってるかも」

「それもそうだな!よぅし!んじゃ、じんたん家に向かってしゅっぱーつ!」

「れっつらごー!」


無駄にテンションの高い私たちは荷物を適当にまとめ、直ぐに家を出る。

向かうはじんたんの家だ。

小さい頃何度も何度も通った道を今度はぽっぽのスクーターの後ろに乗って進む。

髪を凪がすように吹く風に心地よさを感じながら私は目を閉じた。

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