「おかえり。肉、焼けてるぞ。」
「おま、なんで1人でくつろいでんだよ!」
ぽっぽは普段はあまり見せないような顔で少し声を張り上げる
その声には確かな怒気が含まれているのが分かった
ここに誰よりも早くいて肉を焼くなんて芸当は今さっきまでめんまのことを探していたなら出来ない
つまりゆきあつはめんま探しをしていなかった事になる
いつもあまり怒らないぽっぽがそれでそこまで怒るとは少し以外に思うのだけど
そのときはそれほど深く考えることはなかった
「俺の前に現れた時めんまがさ、騒がないでくれっていったんだ。」
「え」
「願いとか、勝手に騒がれんの迷惑だったのかもしれないな、めんまにとっては。」
「...違う!」
可愛らしい声が聞こえた
下に向いていた顔を咄嗟に上へあげる
視線を向けた先にあったのは苦しそうなめんまの顔
肩がぷるぷると震えるめんまの姿は今にも泣き出しそうだ
「そんなことない!皆が集まって、みんながめんまのこと思い出してくれて、その方が、ずっとずっと嬉しいよ!」
「だって!...めんまが死んじゃってもみんなが仲良くしてくれないと嫌だから!めんまのせいで喧嘩してほしくないからっ!」
震える唇から絞り出した声
無情にもその声はそこにいる全員に聞こえる訳はなく
「めんまが言うならやめた方がいいのかもな」
ぽっぽがそう重く呟く
空気は一気に重さを増して息苦しくなる
そんな中、沈黙を破ったのはじんたんだった
「これ、」
がさごそとどこかから取り出したタッパーに入っている食べ物には見覚えがあった
「あ、それ」
「じんたんちのおばさんがよく作ってくれた蒸しパンじゃんか!」
「これ、めんまが、作ったんだ」
「.......ふ、ははははっ、ちょっと待てよ!幽霊が蒸しパン作った?それ、ちょっと話盛りすぎだろ!なぁ、お前もそう思うだろ、久川!」
「......ん、まぁ...斬新だとは思うけどよ。」
尚も笑いが止まらないというように笑い続けるゆきあつに少し気まずそうなぽっぽ
ぐっ、
じんたんが意を決したように顔を強ばらせたのを視界の端で捉えた
「キチガイだって思われてもいい、めんまは言ってる。みんなが集まってくれて嬉しいって。みんなが忘れないでいてくれたら嬉しいって。」
「そこら辺にしろよ。めんまが居なくなって、いつまでもめんまに捕らわれて、情けないな、お前。」
ゆきあつの声はどこまでも冷たい
目はじんたんをこの上なく嫌悪しているのを顕著に表している
「そこら辺にすべきは君じゃないの、ゆきあつ。」
次の瞬間には声に出ていた
それは無意識に、いや、むしろ反射的に出た声
じんたんを庇うつもりなんか無かった
これは自分たちで解決しないといけないしこりだから
だけど
許せなかった
「は?」
「私、めんま見えてるの。幻想でも、なんだっていいの、馬鹿にされたっていい。」
「おいおい、お前もかよ 坂田。」
「だけど、めんまのこと、泣かせるのだけは許せない。めんまは私達のこと迷惑とか言わないよ。これは聞こえなくても分かる。」
しっかりと意識して声を紡いでいく
私のなかの確信を外へと知らせる為に
何よりもめんまを泣かせない為に
「めんまが私達のことを迷惑とか言うよりは、まだめんまが仲良くしてほしいって言いながら蒸しパン作ったって方が信じられるよ。」
「あぁそうかよ。白けたわ、帰る。」
ゆきあつの背中が段々と小さくなっていく
残った私達の中に会話はない
「俺も帰るわ。これ、皆で食ってくれ。」
じんたんは手に持っていたタッパーを私に押し付け
荷物を持つとすぐに山を下って行った
私は何も言わず基地の中に入る
後ろから声がかかったのは同時
「ちょっと待って!かなたも帰るの?」
基地の中に置いてあった自分の荷物から水筒を取り出して少し振ってみせ
「喉、乾いたから。」
と帰らないことを表して笑った
本当は帰りたくて仕方なかった
だけど
ここで逃げたら駄目だと思ったから
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