公園の一角、彼女はそこにいた。
静かに佇んでいたかと思えば何かを思い立ったように芝生の上に座り込み持っていた荷物から画材を取り出していく。
人よりも幾分か癖のあるピンクがかったブロンドは肩の少し下で切り揃えられている。
澄んだ瑠璃色の瞳はガラス細工のように見えるほど綺麗だ。
ハラリと耳から溢れおちた一筋の髪が白い頬にかかるが本人は気にもとめず目の前の美しい風景をキャンバスに描いている。
彼女の瞳よりも少しだけ濃い色合いの小さな池は彼女によって輪郭を持たされ光が差し込まれていく。
私は彼女が好きだった。
瑠璃色の瞳は私の好きな宇宙や地球を彷彿とさせたし、何よりも彼女の綺麗なブロンドに栄える愛らしい笑顔が私の心の癒しだった。
しかし所詮彼女と私は昔馴染みではあるが、私は彼女にとって近所の仲の良いおにーさん的な立場の人間であっただけであり、恋仲という物には望み薄にも程があるほどの関係でしかない。
彼女が隣に越してきたのは私が小学校6年の頃。
彼女は小学校1年になったばかりで私とは五歳、日々人とは二歳年が離れていた。
越してきた日に母親と二人で挨拶に来たときに彼女の母親がうちの母に忙しいので迷惑をかけるかもしれないと言ったことから母は彼女を気にかけ私や日々人にもそうするよう言いつけた。
私も日々人も妹が出来たようで嬉しく年も離れているのによく一緒に遊んだものだ。
日々人とは違う金髪は父譲りであると聞いたことがある。
その父ももういないと告げられて幼心に虚しさを覚えたのもしっかりと記憶している。
彼女はいつも笑っていて、悲しいときも涙を堪えながら笑うものだから子供の私はどうしていいのか分からずに取り敢えず頭を撫でてやることしか出来なかった。
そんな彼女への感情が恋心と気づいたのはいつだったか。
高校を卒業して大学一年になる頃、彼女は中学二年生。
私は宇宙の道を諦めていた。
宇宙飛行士なんて夢物語だと決めつけ普通の会社に入ろうと思うようになっていたのだ。
それでも夜の空が美しすぎて目を逸らすことができない歯がゆさに私はとても苦しんでいた。
そんなときだ。
彼女が私に一時的な逃げ道を与えたのは。
苦しいなら少しだけ寄り道すればいい。
きっと、ムッちゃんは最終的には一番望んでることにたどり着く力があるから。
だってムッちゃんは誰より努力家で誰よりも人のことを考えられる人だもの。
そう言った彼女はとても中学生には見えなくて当時の俺は優しく微笑んだ彼女に完全に落ちてしまったのだ。
結局私はその言葉に甘えて大学から自動車会社へと入りそしてつい最近、まあ色々と事情があったがクビになり晴れて無職。
そして私は今もう一度あのとき逃げた道を歩き出そうとしている。
勿論なれる保証なんて何処にもなく、私だって未だに悩んでいる現状。
しかし何の因果か誰の企みか、私の履歴書は書類選考を通過し、背中を強い力で押されどうにも歩き出さなくてはいけなくなっている。
ふと、彼女の顔が見たくなった。
彼女に会えば何かを振り切れる気がしたのかもしれない。
「おーい、チカー」
そこまで考えて私は背中から声をかけた。
ムッちゃん、振り返ってそう嬉しそうに微笑みかける彼女が愛しい。
彼女の手元の絵はまだ描きかけで止まっていた。
「忙しかった?ごめんな、呼び出して」
「んーん、大丈夫。大学夏休みだし」
にこにこと笑う彼女にそういえばそうかと思い直す。
そう、彼女は大学生四年。
25歳、普通はもうとっくに卒業してる。
留年とか浪人とかではない。
彼女は社会人を二年やったあとに大学に入り直したのだ。
しかも途中休学して留学までしたものだからこの年齢なのだ。
思い立つとすぐ何か行動を起こすところは少しだけ日々人に似ている。
複雑な気分だ。
「でさ、何悩んでるの?」
彼女には全てお見通しらしい。
多分私が顔を歪めたのだろう、顔に書いてあると言いながら笑った。
「んぁー、まぁ、なんだ」
「...当ててあげよっか?」
「へ?」
何かを企む顔で笑ったチカに思わず喉から変な声が出た。
なんだよ、へ?って...間抜けくせぇ...。
「宇宙のことでしょ?」
自信満々に言い切った彼女に私はまた呆気に取られる。
「んー、あれだ、就職先!」
って、ことは、JAXAかな?
きっと日々人だね。
ポロポロと彼女の口から溢れる単語一つ一つが全て当たっていて、いやむしろ私が考えていなかったところまで言われていく。
私はそれをただぽかんと他人事のように聞いていた。
ある程度単語を言い終わるとチカはにっこりと笑って、違う?と小首を傾げる。
「...違く、ない。」
「やっぱりー!」
何がそんなに楽しいのかニコニコと笑い続ける彼女は始終ご機嫌だ。
「私がムッちゃんの一番だね!」
ドデカイ爆弾が真隣に落とされた。
え?うぇ??
私はそんな情けない声を今度こそ飲み込んで然りと顔だけで驚いた。
「いち、ばん?チカが?」
「そう!私が一番!」
「なんの?」
「ムッちゃんの!」
埒があかん。
こいつは頭はいいのに変なとこ抜けてるからな。
つか、これ、絶対顔真っ赤になってるわ。
熱い、頭が沸騰しそうだ。
「私がムッちゃんのこと、一番わかってて、一番見てる!これからも、ずーっと私が一番がいいな」
にひひ、そう笑うチカはいつもより数倍可愛く見えた。
へたれな彼とこあくま彼女
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ムッちゃん好きだぁぁぁ!
可愛い、ムッちゃん可愛い。
へたれなとこも、せりかさんにでれでれなとこも、落ち込みやすいのに頑張りやさんなとこも可愛すぎてやばい!
我慢してたのについに書いてしまった…。
早く新刊出ないかなぁ、と思ってたら書いてました。
連載頑張らなきゃなのにいつの間にかムッちゃんの連載の設定まで書いてる始末...。
連載終わるまで新しい連載は始めないよ!!!
私、頑張ります!(キラキラ)←
ということで、連載はもう少し待ってください(涙目)
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bkm