04 本能がまずいと
私の荷物を持って一歩前を歩くのは昔と比べ物にならないぐらいに大きくなった背中の持ち主の辰也。
5年ぶりに見た辰也は私の知っている小さな男の子の辰也ではなく、男の人の辰也になっていて。なんだか少しむず痒く、切なくなる。

「…にしても驚いたよ。まさか名前が同じ高校に転校してくるなんて。」

「何?こんな可愛い幼馴染と一緒に過ごす高校生活は嫌?」

「まさか。死にそうな程嬉しいよ。」

「大袈裟すぎ。」

「本心だよ。」

昔よりも大分大人びた表情で笑いながらスマートに私の隣に来る辰也。

なんだか昔よりも女の扱いに手馴れてるなぁと思ってしまったが、それもそうだ。5年もたったのだから。
アイスを二人で食べたときに言ってきた好きな人とはあれからどうなったのだろうか。
付き合えたのだろうか。アメリカで彼女は何人できたのだろうか。今恋人がいるのだろうか。

なんて、今の私には関係ない事か。
そもそも辰也への想いはもう5年前に終わっている。

手に自然とこもる力を誤魔化すため、早く足を動かして辰也の少し前を歩くと、ふいに髪の毛を引っ張られた。

「…なに?」

「……いや、伸びたなって。」

「ずっと伸ばしてるからね。」

「…そっか。名前は長いほうがよく似合うよ。凄く可愛い。」

そう言って髪の毛を撫でるように触る辰也に胸がこれ以上ないぐらいに脈打つ。
どうしてそんな事をいうの。どうしてそんな優しい声でいうの。どうしてそんな切ない表情でいうの。

「…しょ、しょくいんしつってまだつかないの?」

「あぁ、ここを真っ直ぐ行けばすぐだよ。」

「じ、じゃあ、ここまででいいよ。辰也はクラブしてるんでしょ?ここ真っ直ぐなら私一人でも行けるから。ありがとう。」

これ以上一緒にいたらまずいと本能が言っているので、逃げるため辰也の手から荷物を受け取ろうとするが、一向に辰也の手から私の荷物がなくなる気配がない。
不思議になって俯かせていた視線を上に上げれば辰也の顔が予想以上に近くにあり、吃驚して少し仰け反ってしまう。

「俺がただ一緒に居たいだけだから最後まで大人しく案内されててよ。」

そんな辰也の言葉に期待しそうになる気持ちをおさえながら疑問系でお礼を言えば、私の頬にちゅと可愛らしいリップノイズが鳴った。


(この5年の間に一体どれぐらいの女の子をたらしこんだのだろうかこの泣きぼくろ野郎は。)

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