03 所詮こんなもの
バスの窓から入る光に、つけているピンキーリングをかざすと薄紫色の宝石がきらきらと輝く。
この指輪は辰也と大我と別れてから毎日のように泣いている私を見かねてお母さんがプレゼントしてくれたものだ。偽者なんだけど。

左手の小指に指輪をはめていると願いが叶う、とプレゼントしてもらった時に聞いてからというもの私はずっと左手の小指にピンキーリングをはめている。

別に叶えたい願いなんてとくにな……くはない。
本音を言えばお金持ちになりたいし、モテたいし、もっと可愛くて綺麗になりたいし、ぼんきゅぼんっていうスタイルになりたいし、と叶えてほしい願いはこのとおり山ほどある。

だけども現実は残酷で、指輪をつけていれば願いが叶うなんてそんなうまい話があるはずがない。
所詮こんなもの子供騙しのおまじないでしかない。
そう頭の中でわかりきっているが、つけていないとどうしようもないぐら不安になるので今でも外せないでいる。

未だに太陽の光で光っている薄紫の宝石を見つめていると目的地の高校前についたらしく、運転手さんが車のドアを開けてくれた。

長時間座っての移動だったからなのか若干重い腰を上げながらバスから地面に足をつけると、履いているお気に入りのオックスフォードヒールの音がコツンと鳴る。

「荷物はこれとこれでいいですかね。」

「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。」

態々荷物をバスから降ろしてくれた運転手さんに頭をさげ、後ろからバスが走り出す音を確認するとともに、いざ出軍と意気込みながら門の前に仁王立ちで立ったのはいいのだが。それにしても。

「暑い。暑すぎる。」

9月に入ったからもう少し肌寒いかなと思っていたのに、なんなんだこのむしむしする暑さは。
パリも9月はそれなりに暑いけど、日本ほどではない。
秋でこの暑さだったら夏場どうなんの…。

嫌でも思い浮かぶ夏場の光景に頭を振りながら着ているレースカーデを脱ぎ、クラシカルキャリーとトランクを引きずりながら門を通って校内に入れば、生徒らしき子達がなにやらクラブをたくさんしていた。

親が勝手に手配し、半強制的に私がこれから通うことになった高校は陽泉高校といって、海外からの留学生が多くいる寮制度のスポーツ強豪校らしい。
のだが、残念ながら私は得意なスポーツなんて妥協してバスケぐらいしかない。
そんな私が何故、この高校に入れたのか不思議でしょうがない。

「はぁ……お花とかを育てるクラブがあればいいんだけど。」

今後の寮生活に大量の不安を抱きつつ、しょくいんしつという所までどうやって行こうか考えていたら、目の前にあったジムの中からたくさんの生徒たちがでてきていた。

ちょうどいい。しょくいんしつまでの道を教えてもらおう。
と、何故だかじろじろと向けられる視線を気にせず、口をあけようとしたらふと、聞いた事があるようなないような声で名前を呼ばれた。

「名前……?」

「…………た、つや?」

名前を呼ばれ、振り向いたほうを見れば、会いたくて会いたくてしょうがなかった人が立っていて。
昔と変わらない髪形と泣きぼくろに酷く胸がざわついた。


(あの美少女は一体何者アルか…。ワタシの心臓がおかしいアル…。バクバクいっているアル…これが恋…?)(何故じゃあぁぁあ何故氷室だけなんじゃぁぁあああああ!!)(アゴリラうるせぇ!ついでにリュウてめぇのそれは恋じゃねぇ!)(そういいながら福ちんもむろちんの事羨ましそうに見て(よぉーし。紫原ハァ食いしばれェ!!!)

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