みんなに知ってほしいこと | ナノ



みんなに知ってほしいこと





昨日を悔やんだって後の祭り――。

ギルドに来る途中、たまたま前を通った店先から漏れ聞こえたポップス。
それがナツの頭に蘇ってきたのは、空中を飛び回るハッピーを追いかけて、何度目かに手が空を掻いたときだった。
別段覚えるつもりもなかったが、耳にくっきりと残っていた。そのフレーズに思い当たる節があったからに他ならない。

やっぱ言わなきゃ良かった。

昨夜ナツが秘密を打ち明けた相棒は、こちらの制止を軽快に掻い潜っては仲間達に「あのね、ナツがね!」とにやにやしながら吹聴している。もはや、ハッピーだけが出所ではなく、伝言ゲームのようにギルド内に広まっていた。
ナツはそれでも諦めきれずにテーブルの上に乗った。翼の生えた青い猫に向かって、手を伸ばす。

「うぉっ!?」
「ナツ、こら!」

がたん、と揺れた拍子にジョッキとつまみが散乱する。気にせず、ナツは手をすり抜けて行くハッピーを追った。

「誰にも言わねぇって言ったじゃねぇか!」
「だって言った方が面白そうだし」

くふふ、と笑いながら空中で一回転。その余裕にさらに焦りを煽られて、ナツは唇を噛んだ。


昨日の夜。
ルーシィの部屋から帰って、彼女のことをぼんやりと考えていたとき、ぽつり、と口から零れてしまった。

『オレ、ルーシィのこと、好きかもしれねぇ』

反応の良い、くるくると変わる素直な表情、仕草。イタズラしても最終的には許容してくれる、心が温かくなるような笑顔。一緒に居ると幸せで、思い浮かべると胸が苦しくて。
ハッピーはナツの発言に目を見開きつつも、応援する、と言ってくれていたのに。


「へぇ、マジで?」
「ルーシィの反応が楽しみだな」

ギルドの端々からそんな囁きが聞こえてきた。暑さを感じないはずの皮膚が、全身火照ったように熱い。
昨日は『かもしれない』だった想いが、相棒の裏切りによって確定していく。口や目の緩みきった顔を向けられても、否定するような材料が見付からない。

ルーシィが好き――。

こんなに全力でハッピーを追っているのに、頭の中にはさらりとした金髪を揺らしながら嬉しそうに笑うルーシィが居る。それにまた、心が躍ってしまう。上を向いたまま腕を振り上げるナツは、まさに躍っているようにも見えただろうが。
無駄に魔力を使ってスピードを上げた相棒は、ナツから最も遠いテーブルに移動した。また、こそこそと仲間達の耳に口を寄せる。
ナツはテーブルの上を飛び石のように跳ねながら、一直線に向かっていった。

「くそっ、っ!?」

飛び上がろうと踏み切った足首を、がし、と掴まれた。顔面をテーブルに打ち付けて、本来なら発音できないような音が口から漏れる。

「何すんだっ!」
「落ち着きねぇんだよ、てめぇは!」

邪魔をしたのはグレイだった。彼は迷惑そうな表情で舌打ちすると、半眼を向けてくる。

「今更止めたって遅ぇっての」
「うっせ」

くすくすと笑い声がギルドのあちこちから聞こえる。その中にルーシィの姿が見えないことだけが、救いだったが。
にやり、と口元を歪めて、グレイが顎を向けてきた。

「どうすんだよ?ハッピーが言わなくても、ルーシィに伝わるぞ」
「…っ」

これだけ拡散したなら、それも時間の問題と言えた。

ルーシィが、自分の気持ちを知ってしまう――。

それを想像するだに、ナツの顔は火が点いたように熱くなる。しかし他の人から伝わるくらいなら、自分から言いたい。自分の口で。ちゃんと。
ぐ、と唇を噛んだとき、ギルドの空気が揺れた。

「ルーシィ!」

上空に避難していたハッピーが、入り口にその姿を見つけて声を上げた。仲間達はにやにやと彼女とナツを見比べている。
ぎしり、と固まったナツより早く、ハッピーが動いた。ぎゅん、と彼女の元に飛んで行く。

ダメだ。言うなら、オレが。

「ルーシィ、あのね!ナツがルーシィのこと、」
「惚れてて悪ぃか!」

思った以上に、大きな声が出た。
ギルド内が水を打ったようになる。仲間達の存在もギルドの風景も、音と共にナツの視界から消えていた。
居るのはただ、口を開けたまま呆然と自分を見返す、ルーシィだけ。
勇気を足と拳に込めて、ナツはすぅ、と息を吸った。二階にまで響くように、声を張り上げる。

「オレはルーシィが好きだ。大好きだ、文句あっか!」
「…………ないけど」

答えたのは、真っ赤に染まったルーシィではなく。

「オイラ、昨日ナツがルーシィの今年一番高い買い物だって言ってた冷蔵庫を壊したって…言おうと思ってたんだけど」
「……あ?」

確かに、昨日ルーシィの留守中に冷蔵庫でファイアドリンクを冷やせるかどうか試していたら、ぷすん、と音を立てて動かなくなった。
ナツを止めなかったハッピーも青くなって、二人で慌てて部屋を後にした、ことを。
今――ようやく、思い出した。
ハッピーはきょときょとと辺りを見回した。ギルド内の注目を集めきったナツは、握り締めていた拳をゆるゆると開く。
ルーシィの口が、ぎこちなく動いた。

「怒っ、たら、良いのよね?それとも、よ…喜んだら、良い?」

次の瞬間、静寂の時間は終わりを告げた。






carpioのたにしさまから素敵な作品を頂きました。
ルーシィを好きかもって思って、冷蔵庫壊した事が頭からすっぽり抜け落ちたナツが可愛くてもう、コレ!どうしたらいいですか!文句ないです、はい。ルーシィは思う存分喜んで良いと思います!それにしてもハッピー、良い仕事しました。GJですね。
Hangoutに公開って意味もあるんですね、英語の方がかっこいいかなと思って翻訳しただけだったので、勉強になりました。
たにしさま、ありがとうございました!


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