手首を掴んだ熱い手のひらを引き剥がそうと、必死にもがく。
だが、がっちりと食い込んだ指先は外れそうにない。
「――ナツ!」
離してくれと視線だけで懇願し、見つめる。
それでも視線の先にある怒りを込めた瞳は、揺るがない。
「―…お前、自分が何言ってんのか分かってるのか」
「な、にを言って――」
「分かってんのかって聞いてんだよ!」
ビリッ、と空気が振動し空間が割れ、ルーシィの体がびくりと震える。
反射的に瞼を閉じてしまい黒い世界に閉じ込められたルーシィが今感じられるものは。
手首を圧迫するほど強く包み込んだ、熱い手のひら。
――ナツが、怒っている。
どうして?なんて問えば更に怒らせてしまうのだろう。
ナツが言葉を投げつけてくる理由は、十分過ぎるぐらいに分かっていた。
納得しないであろう事は、予想していた。
もしかしたら、多少怒るかもしれないな、ぐらいには。
でもまさか、…ここまで怒るなんて。
「お前、オレを何だと思ってんだよ」
「ナ、ツ?」
「オレの事を、どう思ってんだよ…っ!」
ぐら、と意図せぬ方向へ体が傾き、咄嗟に堪えようとして足に力が入る。
だが引き寄せる力はその全てを薙ぎ払って。
気が付けば背中にぎりっと食い込んでいた、燃えるように熱い腕。
「ナツ、痛い、よ」
「んなの知るか」
「手、離して」
「絶対ヤだ」
「ちょっと、ナツ。本当に―…」
「イヤだっつってんだろ!」
深く、まるで飲み込んでしまおうとするかのように胸の中へと抱き込むナツの両腕。
その温もりと力強さにルーシィは小さく息を吐き、どうせならこのまま時間が止まってしまえばいいと切に願う。
だが、それは許されぬ事。
「離して!!」
良くもこんな力が出たもんだと、自分でも思う程に勢い良くナツの胸を突き飛ばし。
驚きに目を見開いた顔を見たくなくて、俯いたまま背中を向けた。
「ルーシ…っ」
ごめん、と口の中だけで繰り返し、足元を睨み付けたまま走り続ける。
裏切り行為と言われるのかもしれないけど。
これしか選択肢は残されていないのだから。
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by 碧っち。様
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