鏡花水月さま 1周年記念小説 | ナノ




ふわりふわりと舞い散る花弁。
ひらりひらりと水面に紋様を描く花はその姿をくっきりと浮かばせては華を咲かせる。
ゆっくりと流れる時を表すようにゆらりゆらりと揺れては漂い、陽の光に反射する水。
きらきらと輝く水滴は夕暮れを過ぎる頃、吸収した全てを帰すように恍惚と世界を映し出した―――。

見慣れた景色を飛び出して、憧憬した日々は決して思い描いた程簡単ではなく、新鮮が日常に変わって、憧れが日常に慣れ親しむ。
あの日あの時あの場所で。
差し出された掌を掴んで、掴まれて惹かれた全てがきっと運命の出逢い。
変わらない笑顔も素直な感情も、想う気持ちは過ごす時と共に似てきたみたいだ。
いつもと同じ朝を何度も迎えて、繰り返す日々。
触れ合う度に混ざり合う温度が肌に馴染んで、合わさる視線が絡まり合う度に熱を帯びる感情。
鳴り響く鼓動の音が同じ速さでリズムを刻んで、聴こえる音色が重なり合って、吐息に含まれた甘さはふたりの時間を重ねていく。
惹かれるままに熱を求め合って。
想いを帯びた指先が触れ合って。
熱に浮かれる吐息を絡め合って―――二つの想いがひとつになった。
慌しく過ぎ去った季節の中で、瞼を閉じて浮かぶ相手はただひとり。
思い返した遠い過去と今を照らし合わせて、ルーシィはくすりと小さく笑う。

「何笑ってんだ?」

読み掛けの本を開いたままページを弄ぶルーシィにナツは首を傾げて。
覗き込むようにその表情を窺えば、笑みを模った唇が艶やかに動いた。

「んー……ひみつ」

嬉しそうに楽しそうに、頬を緩ませてくすくすと零す笑みも洋紙を撫でる指先の動きすべて。
その仕草ひとつひとつがまるで誘っているようで、掴めない胸の内が甘い香りに惑わされる。
意識が、五感がルーシィを追って、自然と熱が上がった。
誤魔化すように口許を拭って、横目に捉えた姿は幸せそうで、思わず「綺麗だ」なんて言葉が脳裏に浮かぶ。
惹かれるままに近付けば、琥珀色の瞳が不安そうに揺れて、大きく見開いた。

「…ナツ?」
「んー…?」

微かに震えて呼ばれた名前に曖昧な返事をすれば、同時に距離が開く。
その空間を埋めるように身体ごと腕の中へ引き寄せて、交わる視線に誘われるまま額を合わせた。

「ルーシィ」
「…なに?」

こつん、と合わさった額から伝わる温度が心地よい。
鼻先を過る吐息が甘く、熱くて、感情を高揚させる。
そうして二度三度、口の中で言い淀んだ想いを言葉にした。

「でぇきてぇる」

刹那、口許を隠してくふふ、と悪戯に笑った仔猫の声にそれは掻き消される。
勢いよく離れたルーシィは耳まで朱に染め上げて、声にならない音を発した。

「なっ…は、ハッピー!!」
「…いつからいたんだよ」

タイミングの良い相棒に半ば呆れながらも口を尖らせれば、仔猫は楽しそうに翼を広げるとくるくると飛び回る。

「あい!ルーシィが鼻歌してた辺りです」
「ずっと黙って見てたわけ!?」

恥ずかしさに任せて追い回すルーシィから逃れるように飛び回るハッピー。
そんなふたりを眺めながらいつもの光景に頬が緩んだ。
先程までの甘い匂いもなくなって、雰囲気もどこか変わって。
それでも楽しいのはきっとこの空間の所為。

「よし!釣りでも行くか、ハッピー」
「あいさー!」
「また脈絡もなく…」
「ルーシィ!」
「もー、今度は何…」
「来いよ!!!」

差し出された掌は真っ直ぐに伸びて、彼女の眼の前で止まって。
満面の笑みが熱を帯びて誘う。












鏡花水月のゆんさまより”祝!1周年多謝”の記念小説を頂いてきました!
本当にいつも思うのですが、ゆんさんの書かれるお話の表現がきれいで大好きです。雰囲気を壊したくないと思って幅を広げちゃいました^^何気ない日常にナツが溶け込んで、ナチュラルにいちゃいちゃして……ドキドキします!ハッピーがいい所で来るのも実は好きです。ナツとルーシィとハッピーらしくてほっこりしました!
ゆんさん一周年おめでとうございました!!


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