一歩進んで二歩下がる | ナノ





「ナーツー、今日こそ聞かせなさいよ?」


にっこり、まさに魔人ミラジェーンの妹と言える顔の彼女に追い込まれた。
ぞくりと何かが背筋を走り抜けるような、妙な感覚に頬が引きつる。




一歩進んで二歩下がる





「何も話す事ねぇよ」


カウンターに肩肘をつき、そう返したが、それは赦されなかった。


「惚けたってダメだからね!ルーシィとドコまで進んだか報告しないとアドバイスしてあげないんだから!」


ぐ、とのどが詰まった。
リサーナが戻ってすぐ、幼なじみの彼女は俺がルーシィにそういう気持ちを持ってる事を見抜いてしまった。
ギルドの仲間も、ましてやルーシィにもうまく気付かせずにいたのに…
流石は幼なじみと言える。


「アドバイスなんて頼んでねぇだろ」

「じゃあナツはこのままでいいの?ルーシィに好きな人出来る前に行動しなきゃ!」

「好き…って、ちょっ……ルーシィだし、いねぇだろ」


色気ねぇし、ルーシィの近くに俺がいるのだから、まずそれはないだろ。
本当はあんまり自信がないけど、そう信じる事で平静を保つ。


「何呑気な……男だったら行動あるのみってエルフ兄ちゃんも言ってたよ?」

「エルフマンに言ったのか!?」

「ミラ姉もエルフ兄ちゃんも初めから知ってたみたいよ?」

「うああ……」


誰にも知られていないと思っていたのに、恥ずかしすぎて何も考えられず天井を仰いだ。
なんてこった……







最近、何だかリサーナとナツが2人っきりで話しているのをよく見かける。
チームで行ってた仕事も、今ではナツとハッピーだけで行っているみたいだし…なんだかあたしの存在がすっぽりナツの中から消えてしまったような気さえする。
でも別に付き合ってるわけでもないし、あたしには関係ない。
いや、付き合って……て、何考えてんのあたし!
ナツはチームの仲間。
でも、それだけの存在ではいてくれなくなった。
いつからか分からないけど、いつの間にかあたしの中の深いところまで奴の存在が侵蝕してきていたのだ。
好きだと言ってしまいたかったが、ナツが居なくなった幼なじみの事を思っているって知っていたから、気持ちを伝えるなんて出来なかった。


「バカだよね…」


仲良さそうな二人を見てるの辛いのに、ナツが気になってつい目が追ってしまう。
好きとも言えず、この気持ちを忘れてしまう事も出来ず、あたしには羨ましそうに2人を眺めるしかないなんて…
深くため息をついて、手の中のカップに半分残ったコーヒーに視線を落とした。


「幸せが逃げてしまうよ?」


トン、と肩を緩く叩かれ、顔を上げるとロキがウィンクをした。


「王子さま登場!」

「呼んでないんだけど…また勝手に出てきたわね?」

「妖精の尻尾の仲間だからね、顔くらい出すよ」

「とか言って…デートでしょ?」

「いや、今日はグレイに用があるんだ」

「グレイ?何で……」

「約束があるからさ…でもまだ発表まで時間ありそうだね」

「発表…?」

かくんと首を傾げたルーシィに、ああ、ルーシィは始めてだねとロキは笑った。

「マスターが出て来てからのお楽しみ」

「気になる言い方ね」

「それより、まだ時間あるしちょっと散歩しない?」

軽い調子で誘われ、ルーシィはふとナツとリサーナを見た。
何か言われたのか、ナツは真っ赤になって天井を見ていた。
その様子に、きり、と胸が疼いた。

「ん、いいわよ。暇だったし」

気がつけばロキの手をとり、ギルドを出ていた。
ナツを見てしまうから酒場にいたくなかったのだと、ロキに背を押され酒場を後にした。






声もなく唸っていた俺の肩をリサーナの柔らかな指先が叩いた。


「あれ、いいの?」


耳元に寄せられた声に誘われ、自分の世界から引き戻された俺の目の前を、ツイ、と白い指先が動いた。


「あ、れ!いいの?」


さも面白そうにそう言って指した先には、ロキと連れ立って酒場から出て行くルーシィ。
酒場の扉を跨ぐ時、くるりとロキがこちらに顔だけ向け、笑った。まるで、ルーシィは自分のものだというように彼女の背に回された手を叩き落としてやりたくなる。

「ルーシィとられちゃうかもよ」


なんて、言われなくても思っていた。


「よくねぇ」


ロキとルーシィは、星霊とオーナーの関係よりもっと密接だ。
ルーシィが星霊を個人として扱っているからか、チームの仲間の俺よりもっと、ずっと近い位置にいるような気がする事もある。
とられちゃうかもよ、なんて言われなくてもわかっている。
ナツは勢いよく立ち上がると、酒場から出て行くルーシィとロキを追った。







「ルーシィ!」





酒場を出て暫く歩いた所で、ルーシィは自分を呼ぶ声に振り向いた。
「………ナツ…」


喧嘩してる時のような強い眼光に、ヂリと背筋が焦げた。
いったい何なのかわからず、咄嗟にロキを見上げると、


「僕は邪魔みたいだから、一人で散歩してくるよ」

「に、逃げる気…?」

「僕はルーシィには忠実な星霊だからね」

「どこがよぉ」


何故かわからないが、どうも怒っているらしいナツの前に主人を残し、ロキはキュルンと魔力の残光を残して消えてしまった。


「ルーシィ…」


熱い手がルーシィの腕を掴み、ぐいぐい引っ張って何処かへ向かっていく。
こんな様子のナツは始めてで、不安が胸の中にじんわり広がった。


「何なのよ、いったい……」


「俺以外と二人きりになるのはダメだ」



ルーシィの言葉を遮り、ナツは立ち止まってそう言った。


「な…に、よ……意味わかんない」

戸惑いを隠さないルーシィの声に、ナツは今自分が言った言葉に含まれた嫉妬心を見破られた気がした。


「ぅあ…、る、ルーシィが、変だって、他の奴に知られるだろ!」

咄嗟に出た言い訳に、手の中の華奢な腕が戦慄いた。


あ、やば………



「変じゃないわよ!」



ビシッとルーシィの鞭が鳴るのを、遠くなる意識の中で聞いた。




終わり




山査子さまの20000記念作品を頂いてきました。
おお!なんとオイシイすれ違い!S級試験発表前のひと時ですね!リサーナとロキがうまい具合に2人のもやもやを引き出してますね。ナツが見てないときはルーシィが、ルーシィが見てないときはナツが見て……悶える!俺以外と二人きりになるのはダメだとか!ナツ頑張ったけど、その後の言い訳がナツっぽい^^で、ルーシィがまた勘違いさせられた、って感じで振り出しに戻るんですね?じれったさが堪らないです!こういう感じ大好きです!氷野さま、20000Hitおめでとうございます&素敵な作品ありがとうございました!

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