なまえは昔からわがままが多い。それは誰にでも成せるような簡単なものであったり、俺に対する八つ当たりとしか思えないでたらめな無理難題(それはたまに俺の命すら危機に面する)であったり、気分次第で様々だった。もっとも、それにいちいち付き合って叶えてやって、彼女のわがままな部分を大いに成長させてきたのは他の誰でもない俺なのだから、文句を言える立場ではないのだが。
 
 
「臨也、臨也」
「うん?なんだい?」
「タルト食べたい」
 
そんなことかと微笑む自分の麻痺具合に呆れることすらも最近では少なくなってきた。ちょうど、デスクトップパソコンと睨めっこするのにも飽きてきた頃だった。糖分補給をするのもいいかもしれない。立ち上がってコートを羽織る。今日は外を歩いてふらふらする気分でもないらしいなまえの髪を、いいこで待っててねと、まるで犬にそうするようにくしゃりと、けれど己から溢れんばかりの愛をこれでもかと掌に塗りつけて一度撫でてから、携帯電話と財布をポケットに突っ込んで家を出た。
 
 
家から3番目に近い、そこそこ良いケーキ屋でフルーツタルトとガトーショコラをひとつずつ購入した。ここは個性的なケーキが芸術的だろうと言いたげに並んでいて、見る分にも悪くない。家にある食材を思い出して、スーパーに寄る必要はないなと考える。数カ月ぶりに自炊の生活をしているとこういう感覚と段々蘇ってくるのだ。波江がいるとなまえが不機嫌になることに気がついてからは、彼女は来てほしいときに呼ぶことにしていた。波江は「本当に都合がいいのね」と言って鼻で笑っていたが、自由が利くこちらの方が彼女にとっても悪い話じゃなかったようだった。わざわざ少し足を伸ばしたせいで、思ったよりも時間が経っていた。タクシーを拾って帰ろう。
 
 
家に帰るとなまえはすやすやと眠っていた。窓から差し込む薄暗い夕陽に浮き上がるみたいに無造作に寝転ぶ姿は最高にきれいで人間味すらないのに、呼吸による胸の上下が生きているんだと思わせる。これが起きるとわがままで甘えたがりで素直じゃなくて皮肉屋で柔らかくて可愛くて仕方のない少女なのだから、どうしようもない。
買ってきたケーキはもしかしたらもう用がないかもしれない。冷蔵庫に仕舞って彼女の隣に寄り添うように、同じ型をとるみたいに寝転ぶ。
人間愛を理由にして、彼女の人間としてのバランスから愛し始めたけれど。もはや、たとえ、彼女が人間でないとしても、わたしは寿命で生きてない怪物なのだと打ち明けようと、それならそれで俺は彼女に心臓を半分くれてやって、彼女に尊い寿命という消費期限を設けてあげたい。そしてまた愛して、心臓をどくどくいわせて、わがまま放題に甘やかして、甘いものを一緒に食べたいなと思う。彼女の心臓を探し当てるみたいに胸の真ん中あたり、すこし左下あたりに触れる。規則正しいその鼓動に自分の呼吸をあわせながら夕陽が終わるまでのもう少しだけ、一緒に眠ろう。
 
 
 
 
きみの心臓になるために生まれてきたんだ
折原臨也//デュラララ!!
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