ほんとうに自分でも驚いちゃうくらい、一目惚れでした。頭のてっぺんに稲妻が走ったみたいに衝撃が駆け抜けて、それから心臓がぎゅうぎゅう苦しくなって暴れ出して。恋しちゃったらしい、なんてその時はどこか他人事みたいに思いました。でもその人をよおく見ていると、のめり込むみたいに気になって気になってしかたなくなるのです。
整った顔立ちをしているとはおもいました。でも、それだけじゃないんです。なんて綺麗な眼をしてるんだろうって、そう気づいたら目を離せなくなりました。キラキラ、星を映しこんだみたいなまなざし。こんぺいとうみたいにあまくておいしそうで、ゼリーみたいに鮮やかな煌めきを浮かべる二つのまんまるお目々。かわいいなあって思います。
これが運命の出会いだなあって直感した私は、ずっと彼を見てきました。名前だって知りました。丸井ブン太さん。3年B組でテニス部所属。テニスはよくわからないけど、全国区である立海のレギュラーになるくらいだからとっても上手いんだとおもう。誕生日も知ってます。身長も体重も知ってます。センパイはちょっと痩せないとですね。今のままでもとても魅力的だけど、時々お腹の脂肪を気にしてるの、私ちゃんと知ってますから。
想ったら一直線な性格って昔からよく言われてきた私は、センパイに近づこうと必死で外堀から埋め始めました。まずはセンパイのクラスメイトから。そしてセンパイのお友達、センパイの後輩、その他もろもろエトセトラ。ぺたぺたと砂のお城をつくるみたいにつくりあげたセンパイ包囲網はちゃんと機能したらしく、普通に会話が出来るほどにはセンパイと仲良くなれていた。一目惚れから約二か月、思った以上に慎重すぎて時間がかかっちゃったけど。
センパイの考えることは、わりと分かってしまう。センパイは天気や曜日によって、なんとなく行動パターンを決めているみたいだから。今日はたぶん、屋上の日。屋上の手すりによりかかって見る空は、正反対の青をしている。私は赤の方がすきだなあ。夕暮れとか、朝焼けとか。すん、と吸い込んだ空気はつめたくて鼻の奥がキュゥと痛む。幾分かまったのち、背後のドアノブが回され、振り向くと待ち望んだその人が姿を見せる。太陽の光を通して、キラキラ光るみたいな綺麗な赤の髪。驚いたように見開かれた、釣り目がちのビー玉みたいな瞳に、歓喜に満ちた顔をした私が映り込んでいる。

「センパイ、センパイっ。こんにちは、おサボリですか?」
「ちげーよ。俺は日本史が自習になったから自主的に青空教室だぜぃ」

あくまでもサボリではありませんとばかりに、ピースサインと共にウインクしてみせたセンパイ。私だけに向けられたウインク。その事実にぞくぞくしちゃう。熱を持った吐息を隠して、真面目なんですね!と笑顔を向ける。精一杯の可愛い笑顔。センパイだけですよ、私がこの笑顔を向けるのは。センパイだけ、『トクベツ』なんです。センパイだけに見せる私だから。センパイだけ。

「お前もサボり?」
「今日は天気がいいですから、ここに来たらセンパイに会えるかなって思って待ってました!えへへ」

一限目から、ずうっとずうっと待ってました。だから会えてすごくうれしいです、私。恥ずかしいから、言わないけど。
にこにこ笑顔のままセンパイを見ていると、センパイはどこか歯切れ悪く、おお…、と呟いた。口元に手をあてて、斜め下に顔を逸らされる。やだ、引いちゃったかな。どうしよう。失敗しちゃったかな。さすがにきもちわるかったかな。どうしたらいいんだろう、あれれ、どうしよう。

「あー…その、サンキュ」

ちょっと照れたみたいにはにかんだセンパイに、胸をなでおろす。よかった、引いてたわけじゃないだ。センパイが照れてくれた。うれしいなあ、すごくしあわせです。夢じゃないかって思っちゃうくらい。でも握りしめたてのひらは、しっかり爪が食い込んで痛みを訴えるからこれは現実の出来事ってことを教えてくれる。
何がすきとか、どこがすきとか、ほんとうはよくわかってない。けど、すきなんだもん。たとえば、ちょっとイタズラっぽくわらった顔とか、たのしそうにボールを追いかける横顔とか。かっこいいし、かわいいなあっておもうのです。ドキドキしちゃうんです。
センパイの髪の毛みたいに、私の恋もばっちり真っ赤になりました。いっぱい膨れあがった恋心は、あとは破裂しちゃうだけ。パチン、って。センパイからの最後の一撃を待っているの。



丸井ブン太//テニスの王子様
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