なんてうまくいかない人生なんだろう。
つくづく、運命というのを呪っている。なぜだろうか、私が想っておもって苦しくなってくるほどに焦がれているというのに。


「おはようさん、小春」

カレは今日もしあわせそう。

「あ、なまえも おはようさん」

あ。おまけでも私にも挨拶してくれた。今日はいい日。おはよう。当たり前のような声で返す。だってそれは友達間の当たり前の挨拶でしかないから。

私がくる日もくる日も想っておもって苦しくなって焦がれているカレは同性を好きな、いわゆるゲイだった。
入学当初から、 わけわからへんのがいる、とは噂だったからゲイだとかそんなことは知っていた。知っていたけど噂は噂であり。そもそもこんな、 わけわからへん学校 で、ゲイなんて、ネタだとしか思ってなかった。そうこう言い訳をして私はカレに憧れる気持ちを止めもせず、突っ走ってきてしまった。

だからこそ思い知らされた。突っ走って、近付いたときやっと理解した。
カレはテニス部での相方である金色くんに恋焦がれている。
それはわたしが一氏くんへ抱く気持ちくらいに、もしかしたらそれ以上に本物で深刻でどうしようもないやつ。

カレのルックスから惹かれた私は、性格もよく知らないままに金色くんから仲良くなることに決めた。外堀というやつ。判断は正しく。すぐに打ち解けてよく話すようになった金色くんといつからか毎朝登校するようになった。そのうち、自然と一氏くんとの距離も近くなって。そこまではおもしろいほどうまくいっていた。
それなのに、学年一かしこい金色くんに私の下心が見抜かれたのはわりとすぐの話で。「なまえちゃん、一氏のこと好きなんやねぇ」なんて、ネタ以外の時は一氏くんのことを 一氏 と呼ぶ金色くんに見透かされた通学路の朝は今でも覚えている。彼の心做しか寂しそうな瞳の色。知らないふりをしたのも、すべて悟ったのも、どちらもその時だから。カレの恋も、あるいは私や彼の恋も、永遠に叶わない。手遅れだった。嫌になるくらい、バランスよく出来上がってしまっていた、まちがった三角形。

だからといってそれ以上の行動にも、距離をとるきっかけにもならず。その頃にはもう、私達はいい友達を装いではなく本音でできるようになっていたし。好きを諦めるより、好きな人の幸せになりきれない幸せな笑顔を見ていた方がこちらも満たされるというものだった。この感情がきれいなのかきたないのか、どうもわからないままだけど。

そんな毎朝もかれこれ2年目。

「今日もかわええ。世界イチや!」

小春ちゃんを褒め讃える一氏くんが世界イチしあわせそう。ふやけた頬で、泣き出しそうな目元はカレ特有の笑いジワによるもので本当に泣きそうなわけではないと、思う。金色くんは金色くんで「いやぁんユウくん、朝からアツいわねぇ」なんて。母音に一々 ンが入りそうな奇妙な話し方で応える。これが常。自分の気持ちにも気付いている中で私の目の前で、カレの本気に冗談で返し続ける2年間を 金色くんはどう感じているのだろう。もしかしたら、彼は彼で辛いものがあるかもしれない。色々と、気付いてしまっている、金色くんだからこそ。

朝っぱらから気色悪いぞーと、教育指導の声が飛ぶけど、聞こえてないみたい。かわりに私が睨みつけておく。カレの真剣な気持ちがのった言葉を笑いに変えようとしないで。ますます私がむなしくなるばかりだから。

「はあ、小春がかわええだけで今日もたるい授業乗り切れそうやわ!俺がユウくんって呼ぶの許してんのは小春だけやで?」

金色くん以外には大体無愛想で機嫌の悪そうな一氏くんの、1日でいちばん幸福な瞬間が毎朝のこの時間なんだろう。
私とって1日でいちばん、カレに近くて嬉しくて、叶わないことを毎朝自覚する悲しいこの時間。

金色くんが普段は一氏と使い分けて呼んでいること、一氏くんは知っているのかなあ。なんて、イヤミなことばかり考えてないと気が狂ってしまいそうな、終わらない朝のこと。




三角でにがい
一氏ユウジ//テニスの王子様
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