ホームに帰ったら何をしようかな。私の頭の中はこの議題でいっぱいだった。そうだリナリーとアフタヌーンティーでもしようかな。ジェリーに頼んでスコーンでも焼いてもらってさ。ジャムをたっぷりつけて食べたいな。飲み物はそうだなあ、アッサムかダージリン。いや、フルーツティーも捨て難い。考えるだけで涎が出てきた。…あ、でも今アフタヌーンじゃないや。空は真っ暗闇に包まれてる。時計を見れば身の毛もよだつ丑三つ時を指していた。


「…リナリー寝てるだろうなぁ」


がたんごとん。がたんごとん。
電車は静かになることなく動いていく。窓に頭を任せて目をつむる。いっぱいアクマやっつけたから、体が疲れちゃった。救護班の人達に軽い手当をしてもらったのはよかったけど頬のガーゼはやっぱり目立つよ。すれ違う人達にこの姿をジロジロ見られるのは今だに慣れやしない。

そんな視線の盾になってくれた、隣にいた、大食いの、白髪の、大好きなエクソシストはもう今はいない。

「…遠いなあ」

ホームに帰ったらすぐにコムイ室長やリーバーさんに怒られちゃいそうだ。少しは休んで!って。
思えばこの数日間、私は無我夢中で任務に行った。この体を酷使し続けたもんだ。微かに悲鳴を上げてる私の足。でもそんなことに一々耳を傾けるわけもなく、私は走った。忘れたくて、忘れたくて、忘れたくて。数日前のことを忘れたくて。

アレンがノアに寝返ったこととか、アレンがエクソシスト凍結とか、アレンがホームにいないとか、今後アレンをノアと認識する、だなんて信じられなくて…――。


頬に生暖かいものが伝わる。

瞼の奥に困った顔をしたアレンが映る。すみません、とそう顔が物を言っている。モヤシのくせになに逃亡とかしちゃってんの。なに私置いて教団出ちゃったのよ。

「ばっかじゃないの…っ」

一人でなにもかもを背負っちゃって、私たちは仲間じゃなかったの。私たちはアレンの仲間じゃなかったの。仲間ってものは、困ってる人がいたら助け合うものじゃないの。…なにをどう間違えてしまったのだろうか。彼のことを好きだと大好きだとけたましく言ってきた私は一体彼のなにを見てきたのだろうか。

「残された者の気持ち考えたことないでしょ。ばあか」

会いたい、会いたい。
なんて声には出せない。出したところで会えるわけもなく、会えたところで私は彼と戦わなければいけないのだ。彼はノアで私はエクソシスト、私はエクソシストで彼はノア、だから。

どう足掻いても、もう遅い。
道はもうすでに別れてしまったのだから。

好きな人と戦う気持ちは、どんなに辛いか、どんなに苦しいか。けど、私は戦わなければいけないのだ。世界のために、ホームの仲間のために。


「ねえ、アレン。私戦うよ」


誰が何と言おうとも。貴方を見つけて―――必ず。


最後の意地、決して誰にも、揺るがせはしないわ