07


同盟前夜――。
幾度も繰り返された会合が最後の詰めに差し掛かり、無事ヤマを越えた。


安堵からか夜半過ぎにも関わらず酒楼へ繰り出し芸者を揚げてのバカ騒ぎが始まった。
無理も無い。
此処まで漕ぎ着けるのにどれだけの犠牲と労力、心血を注ぎ込まねばならなかっただろう。


したたか酒を過ごしたオレは一人藩邸へと戻ってきた。


浴びるほどの酒に身体は酔っていたが、大仕事を終えた後の高揚感で頭は冴えている。
そのまま床にと思ったが、少し余韻に浸りたい為に勝手場から酒を持ち出し部屋へ戻った。


肴は丸窓の遥か彼方に霞んで浮かぶ朧月さえあれば十分だ。


静まる部屋に一人座り銚子の酒を杯に注ぐ。
闇夜に溶ける月へ杯を掲げ、一気に煽った。


やるだけのことは十分やった。
後は小五郎と坂本が上手く進めるだろう。


呑み切れなかった一滴を手の甲で拭う。
冷えた空気が火照った身体をゆるりと冷ましていく。
ほろ酔い加減で銚子に手を伸ばす――不意に銚子が持ち上げられ視線を向ければ夜着を纏った小娘だった。


「お帰りなさい。」
「ああ、起きてたのか。」


オレの傍らに座ると、下ろした髪を耳に掛ける。
ちらりと覗いた首筋が白く浮かび艶かしい。


「すまん、起したか」
「ううん。なんか眠れなくてさ。」
「一人寝が寂しかったか」
「そんなんじゃないよ。」


たわいも無い言葉を交わしていると高ぶった気持ちが落ち着きを取り戻してきた。
小娘の声が身体の芯まで染み通り尖った琴線を解いていく。
それに伴い心地良い眠気が押し寄せ頭(かぶり)を振った。


「高杉さん、かなり酔ってる?」
「いや、そうでもない。注いでくれ。」


小娘は気遣う視線で徳利をこちらに傾けてきた。
少し傾げた肩から葵の髪が滑り落ち、優しい香りが鼻腔を擽る。
つい見とれてしまい不覚にも杯を落としてしまった。


「わっ」「おっと」

「やっぱり酔ってる!」と驚いた小娘は懐から手拭を取り出すと、慌ててオレの胸元やら膝やらを拭ってくれた。
ややして腕が止まる。


「着替えないと」
「全くだ」


少し屈んだ小娘が上目使いで俺の顔を覗いた。
酒と小娘の香りが混じり、艶やかな唇、三角に切り取られた胸元に視線が吸い寄せられる。
二人の視線が交錯した。


「私が脱がせてあげるよ」


小娘はオレの胸に頭を埋めると細腕を伸ばしそろりと帯を解いた。
甘い吐息が地肌に触れ胸の内側が熱を孕む。
背中で躊躇いがちに動く腕が理性を確実に引き剥がしていく。


「――好き・・・」


酒の効果も手伝ってか意識が色に冒されるまで時間は掛からなかった。
小娘を壁へ押しつけると片手で手首を束ね上へ持ち上げる。
驚く小娘をそのままに彼女の腰紐を素早く引き抜いた。


「今宵のオレは、どうやら酔っているらしい。」


持っていた腰紐を小娘の目の前で床に落とす――


「加減出来そうに無いかもしれんが、許せ」








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