04 夜もだいぶ更けた。 外はしとしとと降り続ける雨。 部屋の灯りは行灯からの頼りない光のみ。 こんな夜は、過去の責め苦や、志の為とは言え人を容赦なく斬ってきた自分が重くのしかかり、酒が飲みたくなる。 そんなわけで、今夜も部屋で酒を飲んでいるのだが。 ・・・いつもと違う点がひとつある。 それは、隣に小娘が居るということだ。 独り酒を見咎められ、「それならわたしがお酌してあげる」と言い出したのを抑えきれなかったせいだ。 こいつは一度言い出したら譲らないからな―― だが、隣にこいつが居る、それだけで。 薄暗い部屋に暖かい明かりが灯ったような気がするから不思議だ。 「以蔵、はい」 小娘はまめまめしく酌をしてくれる。 徳利を持つその白く細い指が妙に艶かしい。 その美しい手に誘われるように、俺はかなりの杯を空けた。 酒には強いほうだとは思うが、酔ったな、という自覚はとうにあった。 「以蔵はどうしてお酒を飲むの?」 「ああ・・・寂しいから、かもしれんな」 ぽつりと落とされた小娘からの問いに、素直に答えてしまったのは、やはり酔っていたからだろうか。 それとも、小娘になら話したいと思ったせいなのだろうか。 もしかすると、両方なのかもしれないが。 人斬りの俺が寂しい等と女々しいことを言うなんて、恥ずかしいことだとは思う。 だが、そんな自分も「岡田以蔵」の一部である事は確かだ。 そしてそんな俺の全てを小娘には知っておいてもらいたい、と思ってしまう俺。 ああ、こんなことを考えてしまうとは。 ・・・俺はやはり酔っている。酔っているせいにしておいたほうがよさそうだ。 もう何度空けたかわからない杯を飲み干し、そのまま杯を置く。 すると、その手を小娘の手が掴み、ぎゅっと強く握ってきた。 「どうした」 速度を増す鼓動を意識しながら問う。 すると、 「以蔵が悪いんだよ・・・そんな寂しそうな目、するから」 小娘の口からそんな台詞が聞こえた、と同時に。 俺の視界がぐらりと上向きになったかと思うと、背中に強い衝撃を受ける。 小娘に押し倒された、と気付いた時には、既に目の前に小娘の顔があった。 薄ぼんやりとした室内では、小娘の表情までは窺えない。 「わたしが以蔵の寂しさを消してあげる、から。・・・覚悟、してね?」 そんな声が薄暗い室内に響く。 それと同時に、小娘の唇が俺のそれに重なった。 たどたどしいが、一生懸命なその口付けに、小娘からの気持ちが篭もっているような気がして、俺の脳内は次第に麻痺してくる。 「以蔵・・・だいすき・・・」 俺の耳元で囁くような小娘の声。 俺は酒だけでなく、その声にも甘く酔ってしまう。 駄目だ。もう、この気持ちを抑え切れそうにない。 「・・・覚悟するのは小娘の方だ」 俺はそのまま小娘の頭を抱え込み、身体を反転させながら、深く口付けた。 強襲純愛、 お前が居れば、それだけで。 寂しい夜は、優しい夜に変わるんだ。 |