03

夜も更け、静寂に包まれる藩邸

少し前までは宴席が設けられ、あんなに賑やかだったのに今は嘘の様に静かだ。

お風呂をいただき、自室へ戻ろうと廊下を歩いていると人の気配がした。

そちらの方へ目を向けると縁側で一人、杯を煽る晋作さん

晋作さんもこちらの気配に気付いたらしく、目が合うとちょいちょいと手招きをする。
近づくと自分の隣をとんとんと叩くので、促されるままに晋作さんの隣に腰掛ける。

「風呂あがりか」

「うん。晋作さんは?」

「なんとなく寝れなくてな。少し寝酒を用意してもらったんだ」

「さっきあんなに飲んでいたのに?身体に悪いよ?」

「大丈夫だ。問題ない」
カラリと笑う晋作さんに少し身を寄せる。
お酒の匂いが混じった晋作さんの匂いが鼻を擽る。

「ほんとに?」

顔を覗きこむようにして晋作さんの様子を伺うがほんのり頬が赤くなっている程度でいつもと変わりがない様にみえる。

(ちょっと目が潤んでて色っぽいな。。。って何を考えてるんだろう、私ったら)

「じゃあ、今ある分だけ飲んだらお部屋にかえるって約束してね?」「ああ、おまえの頼みなら仕方ないな。酌を頼めるか」

「うん。もちろん」

晋作さんから差し出された杯にとくとくとお酒を満たす。

此処に来るまでお酌なんてすることもなかったから、初めてお酌をする事になった時はどうしていいか分からずとりあえずお酒を杯に満たしていた。

最近になって、晋作さんならどうすればいいか分かるようになってきたと告げると晋作さんは嬉しそうに顔を綻ばせる。

「それは俺の女になってきたということだ」と。



何度か杯を重ねていくうちに、急にごろりと寝転び、甘えるかの様に膝の上に頭を乗せてきた。

(かわいい…。)

膝の上にある晋作さんの頭を撫で、髪を梳く。

静かな月明かりの下、二人だけの時間





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「お銚子…空になりましたよ?」

「そうか…。残念だな。もう少しここでこうして居たかったんだが」
お前の膝の上は極上だと膝小僧のあたりを撫で、名残惜しそうに膝から起き上がる。

寝転んでいた時には気付かなかったが、立ち上がった晋作さんをみるとかなり足にきているのがわかる。(だから言ったのに…。)

ふらふらと歩く晋作さんを支えるように肩の下に入り、部屋まで付き添う。

既に敷かれた布団の隣に座らせ、酔い覚ましの水をもらってくる事にした。

水を手に部屋に戻ると待ちきれなかったらしく、晋作さんは布団の上に大の字になって寝転んでいる。

「お水ですよ」と声を掛けるが、水を求める手だけが空を切る。
もらってきた水を渡そうとするがこの様子では布団の上にぶちまけるに違いない。


「…仕方ないなぁ」


自らの口に水を含み、晋作さんの唇に近づく。

耳の横の布団に手をつき、標的が動かないように反対の手で肩をそっと押さえる。

はらりと落ちる自分の髪が晋作さんを包み、彼の髪と交じり合う。


唇と唇が重なり、ごくんと晋作さんの喉が動いたと思うと驚いたように目を見開いた晋作さんと目が合った。

慌てて唇を離そうとするが、いつの間にか後ろ頭と首の辺りに腕が廻され逃げられない。

そのまま深い口付けを与えられ、腕にかけていた自分の体重を支えきれずに倒れこんでしまった。

しばらくして漸く離された唇からはぁと吐息が漏れ、逞しい腕でぎゅぅと抱きしめられた自分の体が羞恥で体温が急上昇するのを感じた。

「大胆だな、小娘。まさか、お前に寝込みを襲われるとは。油断した」

ぼぅとしていた私の視界がぐるりと反転し、意地悪な笑みを浮かべた晋作さんが天井を背に私を見下ろす。

「…さっきの気付けの水が良く効いて、今夜はもう眠れそうにもない」





強襲純愛、

長い夜の始まりは私から?





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