明日が今日になる前に





「晋作さん、大丈夫?」

「ああ、今日は調子が良いんだ」



労咳という病にかかってしまってから、ずっと寝たきりだった晋作さんが急に出掛けたいと言い出した。
ずっと寝たきりだった晋作さんにそんな体力はなく、桂さんと説得してなんとか庭で我慢してもらう事になった。

よろよろと歩く晋作さんを隣から支える。

体に触れると変わり果てた晋作さんの身体、胸が痛くなる。今にも消えてしまいそうな感覚に陥ってしまう…。



「梅の季節だな…」



壊れ物を触るかのような手付きでそっと梅に触れる。愛おしそうに見つめるその目はどこか寂しい色をしていた。



「綺麗だね」



ああ、と頷いた晋作さんがそっとあたしを抱き締める。

掬った髪に口付けをひとつ、おでこに口付けをひとつ、瞼に口付けをひとつ、頬に口付けをひとつ、鼻に口付けをひとつ、そして唇と唇が重なる。


深い口付けを交わしながら色んな記憶が甦る。

初めて出会った日初めて手を繋いだ日

初めて名前を呼んだ日

初めて唇を交わした日


…頬が濡れた。唇を離して瞳を開けると同じように頬を濡らした晋作さんと目が合った。2人の想いは一緒だった。…ただ、離れたくないだけなのに、ただ、一緒に居たいだけなのに、どうして。

晋作さんはもう一度ぎゅっと抱き締めて耳元で囁いた。



「今宵は一緒に寝てくれ…」



あたしは晋作さんの胸の中でただ小さく頷いた。頷いたあたしの顎を持ち上げまた深く口付ける。



「お前に伝えたい事がある」

「…んぅ」

「俺の命はもうそんなに長くない」

「…っ」

「もう一刻も離れたくない」



あたしに返事をさせる余裕を与えずにすぐに唇を塞いでしまう。

晋作さんの切なく甘い口付けと、辛そうな顔に涙が出そうになる。彼の命が短いのは嫌でも分かった、でも気付かないふりをしていた。その現実を本人から突き付けられる。これほど悲しくて辛い事はない。



「だからこそお前に…七日に頼みたい事があるんだ」

「…はぁ…ぁ」

「俺の嫁になってくれ…」



唇を離して目に入った晋作さんは今までにないくらい不安げで、小さかった。そんな彼の頬を両手でそっと包んで口付けた。



「今まで散々嫁だ!だなんて言ってたくせに…」



くすっと笑うと晋作さんは目をぱちくりさせた後いつもの笑顔に戻った。



「そうか、そうだったな…」

「あたしはもうずっと前から晋作さんの物だよ、これからもずっと…」



ぎゅっと抱き締めると、ぎゅっと抱き返してくれる幸せ。明日もその幸せを噛みしめたい。



「七日、部屋に戻ったら体を拭いてくれ」

「…え?」

「嫁との初夜は綺麗にしとかないとな」




2011.03.19

十六夜のから騒ぎの
七日様へ相互感謝です!
切甘というリクエストで
ちゃんと切甘かな…?
大変そうな七日さん
これでほんの少しでも
元気になってもらえたらな
…なんて\(^O^)/
改めてこんなあたしですが
よろしくお願いします!

Hanauta* 詩より






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