タッタッタッタ…

廊下を軽快にパタパタと走り、目的の部屋に着く。
浮き足立つ足音はいつもより軽やかに廊下に響いた。

走ったせいで、ほんのりと温まっている手はひんやりとするドアノブをギュッと掴み、一気に開け…



バーンッ!


今にも開けようとしていたドアは、わたしが開ける前に勢いよく開かれ…



ガバッと何かに抱きつかれ、何事かと目をパチパチさせる。

「詩ーっ!俺様に会いに来たんだなっ!!」

「た、高杉さんっ」


甘い匂いにつられたのか、抱きつきながら首元でクンクンと顔を擦り付けてくる。

「ちょっ…」

「詩さん、晋作が嫌なら、はっきりきっぱり嫌と言っていいんだよ」

高杉さんの背後から、サラリと言ってのける。


「き、今日の桂さん怖いっス…」

「で、どうしたんじゃ?」

龍馬さんの冷静な一言で、やっと本題に戻り、高杉さんからようやく解放され、生徒会室のみんなに向き直った。


「えへへ〜っ、ハッピーバレンタインですっ!」


今日は2月14日。
世間は甘い香りが漂って、甘い話も漂う日なのだ。

後ろに隠し持っていた紙袋から沢山の包みを、パッと出す。

もちろん、これは義理だけど…



「…毒入りか」

「い、以蔵君!姉さんに失礼っスよっ!!」

「そうですよ岡田さん。入ってるとしても、土方さんの分だけでしょう」

「あぁっ?!…てめぇ!」

「ちょっとっ!なんで毒入りの方向で話が進んでるんですかっ!!」

毒入りの方向で勝手に進む話に、ちょっとムッとする。
いくら義理チョコとは言え、そんなことするわけがないっ!


「大丈夫、以蔵は照れてるだけですから」

「た、武市先生何をっ…」

顔を真っ赤にして否定しても、全く説得力のない以蔵に、大久保さんが含み笑いをする。

「モテない男はつらいものだな」

腕を組んで、あからさまに見下したような物言い。
よくもまあ言えたもんだ、と思うが、大久保さんはモテるから食って掛かれない。


「あれ?…さっき女生徒に追いかけられて……」

おかしいな、というように桂さんは首を傾げている。

「以蔵は意外とモテちょるからの…にししっ」

「うるさいっ」


バタバタし始めた生徒会室で、みんなに義理チョコを渡して回った。












……うーん…。

今は、渡せないよね。


いつ渡そう…





【校門で】








校門へ向かう並木道。
落葉樹の枝に積もる雪が白いトンネルのようになっている。

そこを並んで歩く左肩から、この景色に相応しくないどんよりとした空気が伝わってくる。


「た、高杉さん…?どうかし…」

「どうしたもこうしたもっ!!」

くわっと目を見開いてわたしを見て、またしゅんとしてしまう。

「いや…なんでもない」

ガクリと肩を落としたままの高杉さん。

そんなあからさまに落ち込んでいて、何でもないわけないでしょうと言いたくなる。

でも。
桂さんが、頑張れっ、と気を遣ってくれて、せっかく一緒に帰ることができたわけで。

今なら渡せるかな、とポケットからチョコを取り出す。






「なぁ詩…」


「ハッピーバレンタインですっ」

「え?」

高杉さんはピタリと歩を止めて、目を見開いたまま動かない。

差し出したままの手に乗るチョコレートが、少し震える。受け取って貰えないかもしれない不安と、恥ずかしさで。




「あのっ…」

「俺にかっ?!」

こくこくと頷くと、


「すっげー嬉しいっ!!」

「わっ!」

ぎゅーっと抱きしめられた。

こんな道の往来でっ!
人が多い所でっ!

でも高杉さんはそんなこと何にも気にしてなくて。




「ありがとうなっ、詩っ!!」

顔を赤く染めて、大きく笑う顔を見たら、わたしが今考えたことなんて、どうでもいいことで。


「もらって…くれますか?」

「当たり前だろっ!」


もう一度ぎゅっとすると、帰るかっ、という言葉と同時に左手から伝わる熱。

「はいっ」

きゅ、と握り返して、並んで歩き始める。








「あ」

ふと校門で立ち止まって、がさごぞと自分の鞄を漁る高杉さん。

そして、じゃーん、と言いながら取り出したポッキー。


「ポッキ…ん!!」

1本口に入れられ、質問も抗議もできない。


「ポッキーゲームしようと思って持って来たんだ!」

「!!」

右手にはスクバと左手には繋いだ手。

ヤバい!!
よく分からない身の危険を察知して、こうなったらさっさと食べて抗議してやろうと、パクパクと食べ進める。



必死に食べ進めて、漸くクッキーの部分だ、と安堵する。


ポキッ



「──っ!!!」

わたしの…わたし達の周りだけ時が止まってしまったように感じた。


ちゅ、と軽い音がして、顔に影がかかる。



「詩は無防備過ぎるんだよっ」

鼻と鼻とがくっつきそうな距離で覗き込む顔が、あんまりにも甘くて。

怒ったような、困ったような、照れてるような…













「ポッキーゲームなんて思いつかなきゃよかった…」

「ぇ?」




何か呟いたけど聞き取れなくて、その後も、何て言ったのかは教えてくれなかった。






終幕




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orangerなお様より…!
フリー小説だったので頂きました!
他にもたくさんのルートが
あったんですが本命の晋作を…!
図々しくも頂きました!
甘い…!ニヤニヤしてしまいました
なおさん、ありがとうございます!

なおさんのサイトはこちら
oranger

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