その日も晋作さんは突然ふすまをあけてあたしの部屋に飛び込んできた。
「詩っ!ゆうっちの誕生日に贈り物をしたっていうのは本当かっ?!」
部屋に入るなり、意気込んでそう尋ねる晋作さん。
「うん、とっても喜んでもらえて嬉しかったよ!」
そう笑顔で返すと、晋作さんはなんだか不満そうだ。
「・・・ずるいぞっ!オレはオレの誕生日に詩から何ももらってない!」
どうやら拗ねているようだ。
晋作さんってば子供っぽいんだから・・・!
でも、そんな彼も大好きなんだけれど。
「だって、晋作さんの誕生日知らなかったんだもん。次の晋作さんの誕生日には、ちゃんと何か考えるから・・・ねっ?」
宥めるようにそう言うと、晋作さんは嬉しそうにニカっと笑う。
「そうか!楽しみだなっ!!」
しばらく嬉しそうにしていた晋作さんだったけれど、ふと思いついたようにあたしにこう尋ねてきた。
「詩は、誕生日に何が欲しいんだ?」
いきなり聞かれて驚いたけど、実は晋作さんから欲しいものが一つだけあったあたしは、少し躊躇いながら口を開いた。
「ええとね、実は一つだけあるんだけど・・・」
「なんだ?何でも買ってやる!」
子供のようにワクワクしている晋作さん。
けれど、あたしの欲しいものはお金では買えないのだ。
「あのね、晋作さんとふたりで一緒にゆっくりできる時間が欲しい」
長州藩邸の「カシラ」として毎日忙しい晋作さんに、彼の時間を望むのは大変なことだとわかっているけれど。
それでも、そう望まずにはいられないくらい、あたしは晋作さんが好きなんだ。
普段は言い出せないけれど、誕生日くらい、我儘言っても、いいよね?
晋作さんはあたしの欲しいものを聞いた途端、少し切なげな表情をして、あたしをぎゅっと抱きしめた。
「こら!何て可愛いこと言うんだお前は!抱きしめたくなっちまうだろうが!」
そうしてしばらく抱きしめてくれたあと、身体をゆっくり離してあたしに微笑みかける。
「よし!忘れられない誕生日にしてやるからなっ!楽しみにしとけよ!」
晋作さんの笑顔があたしの胸に焼きつく。
あたしもめいっぱいの笑顔を晋作さんに返しながら言った。
「・・・うん!楽しみにしてるね!」