優しい嘘





初めて杏絵に会った日、今まで出会った女と違うと思った。気が強くて、珍妙で、無茶ばかりする目が離せない女だった。だからこそ自分のものにしたかった。

お前と出会って俺は変わった。

剣を振るうだけに使われてきたこの自分の腕でさえ、お前を抱き締めた瞬間とても愛しく感じた。お前を抱き締める為だけにあるんじゃないかと思うぐらい。


なぁ、杏絵

あれから何度も唇を重ね、何度も体を重ね、何度も愛を確かめたが、俺は杏絵に俺を刻めただろうか?少なくとも俺の中のお前はしばらく出て行ってくれそうにない。いつの間にかそんな存在になってしまった。


笑っちまう
もう俺はお前を抱き締める力も残ってねぇ…



カラッと襖が開く音がした



「晋作さん…」



愛しい
お前の全てが

もう何もいらない

何もかもだ

ただ俺とお前がずっと笑ってずっと一緒にいれたら、平和な世界でただただ平凡な生活が送れたら…

ただ俺が杏絵の名前を呼ぶと、嬉しそうに振り返る
ただ抱き締めて温もりを感じる
家族が増えるのも悪くない。子供はたくさんいる方が良い。



「晋作さん…」



ああ、杏絵
もっと声を聞かせてくれ。


杏絵はそっと俺の手を握った



「杏絵、泣くな…」



お前の悲しむ顔は見たくない…だから帰れと言ったんだ。杏絵には笑顔が似合っている。

手を伸ばして杏絵の頬に手を添える



「笑ってくれ、お前の笑顔が見たい」



杏絵は乱暴に涙を拭き、大きく息を吸うと今までで一番良い笑顔を見せた。



「良い顔だ。やっぱりお前には笑顔が似合うな。」



つられて笑顔になり、優しく髪を触った



「杏絵、今日はもう遅いから部屋に戻って寝ろ」

「…」

「また明日な」

「…おやすみなさい、晋作さん」

「あぁ…」



杏絵は俺の布団をそっと直し、口付けをして部屋を出て行った。



すまないな、杏絵

俺を恨んでるか?こんな病弱な俺を。いつも無茶ばかりしていた俺を。
お前の中の俺は、どんな男だった?


…杏絵
もっと一緒に居たかったなぁ。だけどそれももう叶わねえみたいだ。

ありがとう

杏絵の幸せを祈ってる、幸せになってくれ。大丈夫だ、お前なら。俺の女なんだろう?俺はずっとお前だけを想ってる。

だから泣くな

最後に俺に見せた笑顔を忘れないでくれ。お前と描いた夢はもう叶わないけど、きっと杏絵なら強く生きていける。


なに、少しのお別れだ。

三途の川で待っててやる。


お前はゆっくりで良い。俺は杏絵が来るまでお前の為に沢山の愛の詩を用意して待っているから…。



「…また、な。杏絵」



お前の全てを愛してる。



優しい嘘
(俺の心はずっと変わらない)


2010.12.29
スターチス(変わらぬ心)





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