いつかさよならする君と


※星核ハンター時代の星捏造


 星核ハンターたちが任務の合間に過ごす静かな一室。積み木を積み重ねる小さな音が響いていた。側には銀の鎧に身を包んだ存在がいる。
 真っ赤な絨毯の上、カラフルなおもちゃ箱。子どもは灰色の髪を揺らし星を詰め込んだような目を一層キラキラとさせながら、積み木の城を作っている。おそらく城壁だろう部分を作ったりお城の土台を重ねたり、星の中の目標を達成するたびサムを振り返ってにんまりと笑う。
 サムはその様子を少し離れた場所から見ていた。星が振り返れば手を上げてやったり、「見ていますよ」と返事を返す。
 星はそれを聞くと満足そうに頷いて、積み木の城作りに再び向かう。サムはその小さな背中を見つめてひっそりと安堵した。

 先ほどまで星は不貞腐れていたのだ。
 今日はカフカ、銀狼、刃の3人が任務にあたり、星の面倒を見ることができるのはサムしかいなかった。しかし、出かける3人の後ろ姿を見て唐突に寂しくなったのか、抱き上げられた星はサムの腕の中で泣き始めたのだ。
 別に星はサムが嫌いなわけではない。いつも遊んでくれるし、訓練にも付き合ってくれる優しい家族だと思っている。けれどまだ子どもの星はその日によって遊びたい人が違うし、自分のわがままが叶わなくなったことをすぐに飲み込めるわけではない。
 仕事に向かう彼らの背を見て我慢しなくてはいけないことをわかっていながらも、涙腺は言うことを聞かなかったようだ。
 外装を解き柔らかい体で彼女を抱きしめながら部屋に向かう。ぎゅうっと服を掴み、くぐもった声をあげる背を撫でながらおしゃべりをする。

「あったかいもの飲む?あたしが入れてあげようか」
「んーん」
「そっか…」

 本で読んだ知識を頭に浮かべながらぽんぽんと一定のリズムであやしていると、だんだんと落ち着いてきたらしい。うごうごと両腕と両足を元気に動かし始めた。

「おりる!」
「えっ!?わっ、ま、待って」

 いつもの遊び場に走っていった星を見て安心するやらなにやら。
 最初はおままごとがしたくなったらしく、銀鎧の姿になって相手をしてあげた。星は楽しそうにメガホンを握ってサムの背中に乗ってくる。
 落ちないように体を支えながら、黒猫のぬいぐるみやうさぎのぬいぐるみを手渡せば尻尾や耳を握ってぐるぐると回したりなんかして、テンションが高い。そのあと打ち捨てられた、特に猫のぬいぐるみはエリオに少し似ていて伸びた生地も相まって哀愁漂う姿へと変貌していた。
 2時間ほど体を動かしてすっかり疲れたのか、今度の星は黙々と積み木を積むことに夢中になった。サムはその後ろ姿を眺めながらしばらく普段の姿で過ごしていたが、時計を見て思い出したかのように立ち上がる。城を作り終えて、人形を置くようにゴミの形の置き物を設置している星を横目にキッチンへ入る。

「……よし!」

 意気込んだところで忘れるところだったと鎧を脱ぐ。手を握り、そして開いて自分を確認。
 キッチンには最近の星のブームらしいパンケーキの粉がある。混ぜるだけで作れる優れもので、以前ニコニコした顔のカフカの視線の先に、銀狼と星に纏わりつかれながらパンケーキを作る刃がいたことを思い出す。
 ボウルやフライパン、油にバターにシロップ。その他もろもろ材料を集めてエプロンをつけて取り掛かる。じゅうじゅうと生地がフライパンの上で踊る音をぼんやり聞いていると、ふと声が聞こえた。

「サム?どこ?」

 どうやら遊びに飽きたらしい星の声がする。ドアの隙間からちょこんと顔を覗かせたあどけない顔はだんだんと香ってきたパンケーキの匂いに明るくなっていく。

「パンケーキ!?」
「うん!あっそうだ。星、お皿とフォークを持っていってくれる?」
「わかった!」

 るんるんという音がつきそうなほど嬉しそうに星はテーブルへ歩いていく。小さなお手伝いさんの背を見送りながら、目の前のパンケーキを手際よくひっくり返す。いい感じのきつね色になったところで火を止めて、星の待つテーブルへと向かう。
 ちょっと形が変わっていたり焦げたりしたものは自分の皿に、比較的綺麗にできたものは星の皿に。大人しくテーブルで待っていてくれた星の素直さに頬が緩みながら椅子に座って、二人で手を合わせて食べ始める。気合いが入りすぎて星の顔と同じくらいの大きさのものができてしまったが、お構いなしに星は口に頬張っていく。カフカほどうまくはできないが、星の口にあっていたらいいな。

「これおいしい!どうやって作ったの?」
「そ、そう?えっと…秘密…かな」
「えー?」

 星は少しだけ不服そうに眉を寄せながらも食べる手は止まらないままだ。頬についたかけらを拭ってやればくすぐったそうに目を細めて、サムーーホタルの手に体温を預ける。
 今の星にとっては名前に意味などないだろう。ただ目の前にいる人が、サムでありホタルであることに違いはない、星にとって当たり前の事実がそこにあるだけだ。
 けれど。
 いつか彼女が世界を知る時、星核ハンターの面々と再び出会う時、彼女と向き合う自分の脚本に何が書かれているのか。それを思うと憂鬱にならないわけではない。不器用な自分では彼女の目の前にあるものを焼き尽くすことしかできないだろうから。その日までに、生命の意味を知ることができるだろうか。

「ごちそうさま!」

 無邪気な声に意識が引き戻される。
 今は、今はまだこの幸せを噛み締めよう。彼女はすぐに大きくなって、飛び立っていくだろうから。巣立ちの時が待ち通しくて、でも別れの時が何よりも、なによりも。
 暗くなった気持ちを誤魔化すように食器を持って立ち上がる。

「そろそろみんなが帰ってくる頃かな。お皿を洗ってくるから、星もお片付けしようね」
「ほんと!?すぐやってくる!」

 灰色の髪を揺らし金の瞳を一際煌めかせて星は椅子から降りた。そして、ドアに手をかけて思い出したように振り向く。

「あとで絵本読んでね、約束!」
「……うん、約束」

 花が開くように、嬉しそうな顔をして今度こそ星は部屋を出ていった。
 あと何回、何回こうして約束ができるだろうか。祈るように、息を吐く。静かに、ただ名残り惜しい熱を抱きしめるように、誰もいなくなった部屋で目を閉じて。

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