おひさまあなた


※女先生


 先生はアル様と同じくらいの背で、白衣を着ていている女性だ。そして柔らかな印象を与えるその見た目からは想像もできないほど戦闘の指揮が上手くて、私みたいな人間にも優しい人だ。

 今日は燦々と太陽の光が降り注ぐいい天気。しかし便利屋68に来る依頼もなく、各々自分の時間を過ごそうと解散した日。私も武器の手入れや爆弾の仕込みに勤しんでいた。とは言っても普段からやっていることではあるので、早々に手持ち無沙汰になってしまう。
 雑草たちの世話にでもいくか便利屋のオフィスに戻るか考えながら俯き加減に歩いていると、

「ハルカ?」

 パッと顔を上げると、そこには先生がいた。先生は両手に買い物袋を持ちながら、私をきょとんと見つめている。寝癖なのか少しだけぴょんと跳ねた髪の毛が今育てている雑草の一つに似ていて、かわいらしいなと思った。私なんかがそんな風に例えるのは失礼なのかもしれないが。

「せっ、先生…おはよう、ございます。えと、」

 挨拶を返したはいいものの、先生がどんな気持ちで声をかけてくれたのかはわからない。私が気付かぬうちに粗相をしていたならば、命を持って償わなければ。緊張で視線をあちこちに揺らしていると先生から笑い声が聞こえた。

「あはは、緊張させたね。見かけたからつい声をかけちゃった。ハルカは今日はお休み?」
「は、はい!やることもなくて…」
「そっかそっか」

 うんうんと私の話に相槌を打ってくださる先生は暖かくて、こんな自分が話していい相手なのかと体が強張りそうになる。便利屋のみなさんの他に私に優しくしてくれる人なんていなかったから、そわそわとしてしまう。幸せに落ち着かないというか、暖かで上品な毛布に包まれているみたいな慣れない居心地の良さ。銃を抱きしめる。

「ハルカ、よかったらシャーレにおいで」
「え、わ、わたし、何かしてしまいましたか…!?すみませんすみません…」
「えっ!?いや、違う違う。ハルカが良ければお菓子、一緒に食べよう」
「お、お菓子…ですか?私なんかが…いいんでしょうか…」
「もうっ!私がハルカと食べたいの」
「あぅ、ぁ、はい…!」

 先生は握った袋を上に持ち上げてにっこりと笑いかけてくれた。歩き始めた先生の後を追うようについていくと、普段は大きく見える背がなんだか小さく見える。
 そうか、いつもは先生やアル様を守れるように私は前に出ていたから気づかなかったけれど、先生は銃弾一つで致命傷を負ってしまう。キヴォトスに生きる人とは少しだけ勝手が違う人。
 ぎゅっと銃を握って辺りを見回す。先生は、私が守らなきゃ。
 そう決意して前を見ていなかったせいで、先生の背にぶつかってしまった。

「おおっと」
「はっ…!!!す、すみませんすみませんすみません!!先生にぶつかってしまうなんて、かくなる上は…」
「わーーー!止まって止まって!!大丈夫よ!」

 ぺこぺこと頭を下げる私を先生は必死に止める。ぎゅっと目を閉じて情けなさを恥じていると、先生の優しい声が耳にすっと入る。

「よかったらハルカが隣を歩いてくれると嬉しいな。ハルカのお話も聞きたいし」
「わ、私なんかがいいんでしょうか。話だってつまらないのに…」
「つまらなくないよ。私はハルカのお話が好き。雑草の話も便利屋でのお話もすごく楽しいよ」
「う、ううぅ」

 こんなに幸せでいいのか、もっと先生に恩返ししなきゃ、もっともっと役に立って、もっと…。いろんな感情が頭と心に溢れる。

「ふふ、袋持つのお願いしてもいい?」
「は、はい!精一杯持ちます…!」

 先生から袋を受け取り隣を歩く。引け目も情けなさも抜けなくてまだまだではあるが、先生の気持ちを無駄にすることなんてもっとできない。先生が私なんかといてもとても楽しそうにしてくれるから、今はがんばって、いっぱいいっぱいではあるけれど、先生の優しさを大切にすることにした。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -