ふわふわひなどり


※女先生


 うとうととしながらも白くてふわふわな塊を抱きしめる。恥ずかしいのか居心地が悪いのか、身じろぎを少しだけした腕の中の少女はすぐに大人しくなった。静かな暗闇と規則正しい心臓の鼓動、そして穏やかな時間だけがここにある。

 ヒナはまったく幸せいっぱいになっていた。
 困惑と、私なんかがという気持ちと、まだこのままがいいと言う心の声がずっと頭を巡り続ける。自らを抱きしめる腕の中から、ヒナはその顔を見上げた。
 シャーレの先生、彼女は大人でいつも忙しそうにあちこちで仕事をこなしている。時には生徒のために頭を下げて、自らをすり減らすことも厭わない人だ。

 今日、ヒナは誘われて先生の家(仮)に来ている。シャーレの当番を担当した日に「頑張り屋のヒナにご褒美をあげたいな」なんて言われてしまい、悩んだ末の提案だった。

「先生ともう少しいたい」

 断られると思った提案は承諾されてしまいあれよあれよと計画は立てられ数日の時間は流れ、当日。流石に家にまで押しかけるわけにはいかず、シャーレの先生のために用意された部屋でお泊まり会をすることになった。
 お風呂に入った後、先生はヒナの髪を乾かしながら「風紀委員の皆にも連絡しておいたから、明日の心配はしなくていいよ」と言ってくれた。
 自分の端末でも確認するとアコやチナツ、イオリから「ゆっくり休んでくださいね」という内容のメールが入っていて、心配をかけてしまっていたのかと反省した。そして登校したら改めてお礼を伝えておこうと決意した。
 仕事は自分に出来ることをいつもしているつもりだし、日常にもなっていたから頭を少し抱えるくらいで解決できるものばかり。確かに先生に他の生徒が甘えているのを見て羨ましいと思ったことがないわけでもないが、積極性を出せるわけもなく。
 当番になって先生と二人仕事をする時間を楽しんだり、彼女がかけてくれる優しい言葉を大切に抱きしめることが、ヒナにとっての精一杯だった。少しの触れ合いだけでスキップしてしまいそうなほど幸せになれるのだ。
 なのになのになのに。
 ベッドが一つしかないために、ヒナと先生は一緒に眠ることになった。自分はソファでいいと抵抗してみても、先生は真剣にヒナに休んでほしいのだと頼み込んでくる。

「ヒナが寝にくいなら私がソファで寝るよ」

 なんて言われてしまってはもう照れている場合でもなかった。ヒナは心の中で「同性なのだから別に緊張しなくてもいいのだとはわかっていても、大切な人の隣で休めるとなれば落ち着かないことはどうかわかってほしい」と誰にともなく言い訳をした。
 ベッドに入って最初は近況を話し合ったり、ゲヘナの様子や先生の日々の様子を聞いて、お泊まり会らしいことをした。この部屋にくすくすと笑い合う二人を邪魔する者はなく、どこまでも話し続けていられそうだった。
 やがて先生の声に柔らかさが混じり始め、目を眠そうに閉じて黙り込むようになった。ヒナの言葉に懸命に返事を返そうとしてくれる優しさは嬉しいが、先生も多忙な生活で疲れていたのだろう。

「おやすみなさい、先生。またあした」

 返事はなかったが、うなずきが返ってきた。すぅすぅと規則正しい寝息を立てる先生に、ヒナはそっとくっついた。シャンプーと石鹸の香りがして安心する匂い。もう少しだけとヒナは腕を回して先生にそっと抱きついた。

「うぅ、ん、」
「せ、せんせい!?」

 まるで起きていたかのようなタイミングで、先生がヒナを抱きしめた。咄嗟に離れようにも名残惜しくされるがままにヒナは抱き枕となった。普段なら知ることのない一面を知ってしまった特別感に照れ臭さが混じる。うりうりと先生に頭を擦り付け体から溢れてしまいそうな気持ちの発散先を探す。
 明日は遅く起きても許される。「少しでも長くこうしていられますように」と気持ちをこめて先生を抱きしめ返し、ヒナも目を閉じた。

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