ある一幕
※勢いだけの作品
おかしいところは見逃してください
シャーレのオフィスにて一人の少女が仕事をしていた。本来はもう一人、頼み事をしてきた「先生」がいるのだが、彼女は昼食を買うために外に行っている。自分が買ってくると声を上げる前に、にこにこと「行ってきます」と言われては、なす術もなかった。
本当は今日もアウトローを目指して便利屋の活動をするはずが依頼主との方向性の違いにより依頼を断ってしまい、結局収入がなくなってしまったわけだ。
そうして当てもなくふらふらと町を歩いていた時、先生からモモトークにメッセージが届いた。
『アルがもし暇だったら、仕事を手伝ってくれないかな?』
シャーレの先生といえば誰もが信頼を寄せる、頼り甲斐のある大人だ。アルにとってもこれまで仕事をしてきたどんな人間よりも、先生は話しやすくて優しい。アルのことをからかうこともあるが、決して傷つけようとはしない人だった。すぐに返事を返してシャーレへ急ぐと、先生は少しだけやつれた顔で出迎えてくれた。
「おはようー、アル」
「おはよう先生。……じゃなくて、どうしたのよこの量は!!」
「あはは」
困ったような顔をして先生は笑う。山のように積み重なった書類は彼女の睡眠を奪っているようだ。
常日頃手伝ってくれている面々もそれぞれの生活がある。今日はたまたま誰も手が開かなかったらしいと言ってはいるが、そんな先生の生活だって守られるべきものだと思う。
アルはぐるぐると思考を回しながらも書類を数枚受け取った。先生は「ありがとうぅ」なんて気の抜けた声を出している。
「まったく…。でもこの私を頼ったのは正解ね!すぐに終わらせてみせるわ!」
「頼りにしてるよ」
へにゃりと笑う先生の顔に満足げになると、アルは仕事に取り掛かった。本人は認めたがらないが、アルは事務仕事が得意なのだ。
そして始まりへと至る。
ほどほどにまとめ終えると、アルは背伸びをして休憩に入ることにした。そろそろ先生も帰ってくる頃だろうと考えながら手持ち無沙汰にペンを回す。
ガチャリとドアの開く音と共にアルと同じくらいの背が飛び込んでくる。
「アルー!ただいま!」
「おかえりなさい先生。ほらこれ、終わらせたわ!」
「えっ、ほんと?やっぱり頼れるのはアル社長だね」
うんうんと頷きながら先生はパンやお菓子を袋から取り出している。パンパンに膨れたコンビニの袋には取り出した以上にまだまだ食べ物が入っていた。先生はアルと自分用にいくつか並べると、残りをそのままアルに渡した。
「はい、残りは便利屋のみんなで食べてね」
「こんなに…!?でも……うぅ…、も、もらえないわよ」
「いいのいいの、便利屋68を雇ったお給料の代わりだと思って」
大したことはしていないとまごつくアルの手に袋を握らせて、先生は朗らかに笑った。片手に握っているメロンパンですら神々しい光を放っているように見える。
「ありがとう、先生」
嬉しそうに袋を握るアルのその姿を見れただけで、先生にとっては元気をチャージできるものなのだ。残りの仕事もあと少し、でもすぐに終わってしまうだろう。